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最悪なのは、誰もが杏奈のことを信じ切っていて、誰も凪の話を聞いてくれない事だった。
悪口を吹き込まれていた友達や伊吹くんは、先入観でしか凪を見れなくなっていた。
人は良い印象よりも悪い部分を覚えている。
その性質を杏奈に上手く利用された結果だったのかもしれない。
とにかく凪は…学校を卒業するまでずっと孤独に過ごした。
そして中学。体育祭の前。
無理に応援団に推された凪は、一緒に練習していた一つ上の先輩に告白されて付き合い始めた。
名前は安岡先輩。
優しくて、大好きだった。
でも…一度ある事は二度あると言う。
そんなものがこの場合、適用されるかは分からないけど。
『ごめん…妹の杏奈ちゃんの事が好きになった。だから別れてほしい。』
切実にそう訴えてくる、安岡先輩。
来年には卒業する三年の先輩と、二年生の凪。
そして今年中学に入学してきた一年生の、杏奈。
だけど凪と先輩が付き合い始めてからまだ1ヶ月ほどしか経ってないのに、どうしてよりによって先輩は妹の杏奈を好きになったのだろう?
聞けば杏奈は、よく凪の事でアドバイスをしてくれたのだと先輩は言う。
凪の好きな食べ物について話したりだとか、放課後待ち合わせして、凪の好きそうなバッグや小物を店に一緒に見に行ったりしたそうだ。
凪抜きで。凪のネタで。
2人は本当のカップル以上に、頻繁に会っていたらしい。
今だに小学校の時の悪い噂を引き摺っていた凪には友達がいなかった。
その不可解な状況を誰かに相談するという事ができるはずもなく。
結局、先輩と別れる以外の選択肢がなくて。
心が離れてしまった人を繋ぎ止める方法を凪は知らなかった。
ただ———その時はあまりに悲しくて、伊吹くんの時以上に泣いた。
たった一人で。
あの時に涙は枯れたんじゃないかなと思うくらいに。
本当に先輩の事が大好きだったから。
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