第21話
「皇太后様。」
「…丞相か。」
黒と赤の色鮮やかで上品な文官服に身を包んだ金劉帆が現れて、皇太后は側に控える内官と宮女らに席を外すように促す。
劉帆は下級文官から丞相(※今の朱国では一番上の官職)にまで上り詰めた男だ。
雷浩宇とはまた違った野心家でもある。
まだ40歳手前だが髪は白髪混じりで、眉間にはシワがいくつも刻まれている。
切長の目に、右頬上にある黒子が特徴の男だ。
二人きりになると劉帆は身を屈め皇太后にそっと耳打ちした。
「皇太后様。
静芳様にはあまり期待しない方が良いでしょう。
一度失敗している者は今後も期待できないということです。
生かしておけば危険という場合も…」
「…分かっておる。
だから今回で終いじゃ。
皇帝を床入りさせることが出来なければ…
貴妃の始末はお前に任せよう。」
「…なるほど。皇太后様はやはり皇太后様でいらっしゃいますね。」
何か企てるように含み笑いをする劉帆を見て、皇太后も合わせるように嗤った。
この劉帆と…
今の皇帝の父親である冬雹を。
前皇帝を暗殺した。
私はあの男が嫌いだったのだ。
あれだけ全てを捧げたにも関わらず、あの男は鷲国から連れ帰った氷水をあっさり皇后にした。
しかも氷水はたった一度の床入りで太子を産んだ。
悔しかった!!
私が欲しがっていた全てをあの女が奪っていったから。
冬雹の寵愛…太子…皇后の座。
それらを与えられてなおも、氷水は冬雹に反抗し続け、あろうことか我が子を殺そうとした。
愚かな氷水よ…!
しかし馬鹿をやってくれたお陰で冬雹を上手く操ることができ、ずっと妬ましかった氷水を処刑できた。
それから皇帝を閨で魅了し続けてようやく念願だった寵愛を授かり、皇后の座まで上り詰めたのだ。
なのにどうだ。
子は出来ず、皇帝の寵愛は一瞬だった。
若い頃は戦狂いだった冬雹は次第に側室狂いとなり、色々な女を側室に召し上げた。
中には私付きの宮女だった女もいる。
一時期は後宮に、冬雹が手をつけた千人近い側室や宮女がいるほどだった。
私自身がもう子を身籠る機会がないと悟ると、地位を揺るがされるのを恐れ、側室が身籠った側から次々と暗殺したのだ。
どの側室にも男児など生ませるものか…!
中には目を逃れて女児を産んだ者もいたが、女はまだいい。それなりに女児は見逃してやった。
女は大きくなれば政治に利用できるからだ。
そうして必死に自分の地位を守り続けていた時に、この劉帆が私に囁いた。
「皇帝を殺してしまいなさい。
任冬雹を殺すんです。そうすれば貴方は自由になれます。」
———————憎い男からようやく解放されると思った。
あれからあの男の息子、現皇帝の雲嵐の暗殺をこの劉帆と企ててはいるが、奴は中々隙がない。
というより弱点がないのだ。
普段は馬鹿なふりをしているが実は冷静で不気味な部分がある。
そして大事なものを持たない。
寵愛する妃は今のところ、あの静芳だけ。
弱点を握りたいのにあの皇帝は何考えてるのかがさっぱり分からない。
だけどいつかは殺してやる…あの氷水が生んだ子だから。
「皇太后様。…麗麗。焦ってはいけませんよ。いくらでも機会はありますので。」
「ああ…分かっている。劉帆よ。」
近距離で耳打ちをする劉帆を、皇太后は両腕を回して抱き締める。
ただの共犯の筈がない。
二人はもう長いこと、男女の関係になっていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます