あれから俺達は

 ザイン帝国内。



 新しく戴冠した皇帝が、バルコニーから手を振っている。

 多くの国民から祝福を受け、彼は優し気に微笑んだ。



 ザインの6代目皇帝、アドニス・F・ザインだ。



 そんな彼の晴れ姿を、誇らし気に見守るのは。




 「キリクス様。」



 「来ましたか。ユースティティア様。」

 


 広い皇室の回廊で待ち合わせたその人は、水々しい薔薇の花のような青色のドレスを着て、丁寧な挨拶をした。

 


 今日は2人にとってかけがえのない、アドニスの皇帝即位の日。

 こんなに喜ばしい事があるだろうか。



 そして………



 「では、参りましょうか。美しいお姫様。」


 

 珍しく煌びやかな正装着を着たキリクスは、ユースティティアに腕を組むようにと誘う。



 「もう、……キリクス様ったら。」


 

 照れ臭そうにユースティティアが笑う。

 その顔からは溢れんばかりの輝きが滲み出ている。

 今日も、彼女はどんな宝石も霞むほど美しく、女神でさえも嫉妬するほどに可愛らしい。

 


 回帰後の未来で、キリクスは再びユースティティアの婚約者になった。






 ◇◇◇




 国民へのお披露目が終わり、神々しい皇帝の椅子に腰掛るアドニスは、全く持って堂々とした振る舞いをしていた。

 誰よりもその椅子に相応しいと改めて感じずにはいられない。

 皇帝に祝いを述べるべく、謁見を待つ貴族達の、長蛇の列ができていた。

 



 「皇帝陛下に御拝見申し上げます。この度は誠におめでとうございます。」



 「この度は誠におめでとうございます。皇帝陛下。」



 「はは。ありがとう、2人とも。

 そう畏まって言われると何だか寂しい気もするけど。」

 


 頂きに光り輝く冠を乗せ、赤いマントを羽織るアドニスはいつもと変わらない笑顔をキリクスとユースティティアに向けた。


 

 「兄上が無事に戴冠されたので、このザインはこれからますます発展することでしょう。」



 「そうだな。我が国はまだ小国だが希少な資源のある密林に、魔石の原石があるお陰で、今後さらに発展しつつある。

 これを生かしてさらに国が豊かになるように努めよう。」




 和かに笑うアドニスはいつだって国の行く末を見つめている。

 父である皇帝が急死したのは痛ましい事だが、彼が無事に皇帝になれて本当に良かったと、キリクスは心底に思う。



 「……ところで、お前達の結婚式はいつ挙げるんだ?」



 「!!?」



 「兄上っ……!?」



 驚いて見上げれば、珍しくアドニスが意地悪そうに笑っていた。

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