私を殺して

 「ああ…そんな…っ、エリス、頼むから目を開けてくれ。

 愛してる。君を愛してるんだ。エリス。」




 愕然と床に崩れたキリクスが、エリスの半身を抱き起こした。

 エリスに愛を告白しながら、泣いている。




 「ユースティティア……!!

 やはり兄上を殺したのもお前か……!

 許さない……俺はお前を絶対に許さない!」




 エリスを抱きしめながら、キリクスはその場に呆然と佇むユーシティティアを責め立てた。

 その瞳には、恐ろしいほどの殺気が込められている。

 


 それを目の当たりにし、なぜ、また希望を持ってしまったのかと自問自答を繰り返す。

 ユースティティアがキリクスから愛される事など、決してありはしない。



 ふとユースティティアは腹の底から、悲しみと、怒りと、絶望が一気に込み上げてきた。



 「あは…あはははは!あーはははは!!」



 狂ったようにユースティティアは笑い始めた。

 その目の奥には涙が溜まっていたが、それを流すことはプライドが許さなかった。


 

 剣を抜いた騎士達に取り囲まれて、ユースティティアは地面に叩きつけられた。

 体に痛みが走る。床の冷さに生きた心地を奪われる。

 もう、全てがどうでもいいと諦める。




 (今すぐに私を殺して)



 (たった1人、愛されたい人に愛されない人生ならもう要らない)


 (疲れた もう死なせて

 お母様、ごめんなさい……

 先に逝って待っているわ)





 その時、空間が巨大な揺れに見舞われた。

 縦横と震えは大きくなり、テーブルの上の花瓶は割れて、戸棚から物が大量に溢れた。

 


 これは、風の魔力だ。

 魔力を使って魔術を構築しようとしてる。



 そこから波及するように陣が展開されていく。

 発光した緑の砂塵のような風と、魔術文字が浮かび上がった。



 

 これはキリクスが魔術を使った証だった。

 



 詳しく読み解けはしないが、ユースティティアはこの術式を知っている。

 帝国で最高峰の魔術師を誇るキリクスだからこそ、扱える魔術。




 これは禁忌とされる〈回帰〉の魔術。




 何が起きてるのか分からず皆が混乱する中、ユースティティアは、エリスを抱えたキリクスと目が合った。




 殺したいとその鋭い目が言っている。




 (なるほど、キリクス様は〈回帰〉するのね)




 (そこで全てをやり直すのね)




 キリクスは過去に回帰し、アドニスの毒殺と、エリスの強行を止める気だ。




 (そして、私を殺すのね)



 

 

 (いいわ、キリクス様

 過去に戻って全てやり直して)




 (私がアドニスを死に追いやった原因を作ってしまう前に、戻って)






 (そして私を殺して)








 〜ユースティティアの場合〜end

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