聖女と魔王の物語り
【聖女エレナは悪に堕ち、最後は魔王共々、勇者によって倒された】
その伝説は、一種の教訓として今日まで延々とルイン公国の人々に語り継がれてきた。
白髪頭の老婦人は、まるでその情景を見てきたかの様に、古びた椅子を揺らし、得意気に小さな子供達に語り聞かせていた。
「えー!じゃあ聖女様は死んじゃったの?」
「かわいそう。」
「何を言う。可哀想なものか。聖女のくせに魔王と手を組んで、このルイン公国を滅ぼそうとした悪女だったんだよ。」
「聖女なのに悪女?変なの。」
「魔王が悪いんだよ!」
「どうして?」
「魔王が聖女様をゆうわくしたんだ!!だから…」
何の汚れもない純粋な目をした子供達が、老婦人に群がりながら、懸命に伝説について議論している。
「魔王が誘惑したんじゃない。
聖女が強欲じゃったんじゃ。
だから魔王と手を組んで自ら悪女になったんじゃ。」
「ごうよくって何?」
「ばか、よくばりの事だよ!」
「聖女様は何が欲しかったのかな?」
「さあ…それはわしも知らんがの。
あれだろ、きっと…金とか権力とか…綺麗なドレスとか…?
とにかく!いくら聖なる力を持っていても、悪に染まれば最後は必ず滅んでしまう!
つまりそう言うことなんじゃ。」
(………やだな〜お婆さん)
(金とか権力とか…綺麗なドレス?)
(そんな物には一切興味が無かったと言えば、お婆さんは信じてくれるかしら?)
枯れてひび割れた大地。乾燥地帯。砂漠。
オアシスのある小さな街。
古惚けた家のテラスにある椅子に座り、幼い子供達にそう言い聞かせている老婦人を見て、エレナはハアと、溜息を吐いた。
もう何度。何百、何千。エレナはその下らない伝説を聞いてきたのだろう。
(何で私が綺麗なドレスを欲しがるのかな?)
あまりにネタが無さ過ぎたのね、とエレナは逆に笑ってしまう。
確かに、いつまで経っても伝説というものは誰かにとっての都合の良い『お話し』だ。
見事に脚色され、多くの人に広がってしまえば、覆す事は容易ではない。
ただ、その伝説に出てくる〈聖女〉エレナが今ここに居ると言ったら、老婦人や子供達はどんな反応をするだろう。
そんな事を思いながらエレナは今日も、〈彼〉を探し続けている。
けれど残念ながら今日もまた、〈彼〉には会えそうもない。
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