満月に誓う

第19話

男は嬉しかった。




生まれて初めて歌を誉められたから。




もう20万円盗まれた事など、どうでもよくなった。




単純な男である。




「あの老人、汚い格好してたけど、音楽の事良く分かってる感じの奴だったなぁ。」




「きっと、若い頃に音楽関係の仕事でもしていたのだろう。」




「もしくは、ミュージシャンだったりして。」




「うん、ありえる、ありえる。」




「だから俺の才能が分かったのだろう。」




「やっぱり分かる人には分かるんだね、うん、うん。」




都合よく勝手な妄想をする、超ポジティブな男であった。




ある意味、超幸せかも。




羨ましい。




勿論、ある意味で。



妄想でハイテンショになり、完全に舞い上がった男は、全速力で滑り台の方へ走った。




滑り台の上に立ち、満月に向かって、何やら吠えている。




吠えたかと思うと、満面の笑みを浮かべ、奇声を発っしながら滑り降りてきた。

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