第36話 僕最強
「活性化するにも魔力を多く消費する。使えるだろうか?」
「あ、はい。やってみます。レグルスエイドでは危ないので家に戻ったら」
微笑ましくフィールちゃん達を見ているとレグルス様がレッグスに魔石を手渡す。
そんな貴重な魔石をくれるなんて、エレービアの王族は太っ腹だな。
「……そうだな。少し時間を置いた方がいいだろう」
「え? 何でですか?」
レッグスの答えを聞いて少し考え込んだレグルス様。不安そうに席を立つと窓の外を見つめる。
「ブラックゴーレムを倒したと報告してから、王都から何人かやってきた。更に増えている」
「やってきてる? 誰がですか?」
「貴族だ」
窓の外を眺めながら話してくれるレグルス様。レッグスの疑問に答えると頭を抱える。
「まったく、いつ私が英雄を独り占めしたんだか……。みな、レッグスを欲しがっているんだ。物ではないと説得しているんだが、会わせてくれとうるさくてな」
「そ、そんな事になってるんですね……」
「ああ。ブラックゴーレムを倒したくらいならばまだよかったんだがな。今回のことで我慢ならなくなったようだ。【和平協定を武力で達成した英雄】と噂されている」
武力で和平って……、可笑しな話が独り歩きしてるんだな~。
レグルス様の話を聞いてレッグスも頭を抱える。
「はぁ~、早めにここを離れた方がいいですかね」
「そうだな。早い方がいいだろう。明日、パーティーを開く予定を作った。朝から参加できるものだ。その間に静かに帰れるだろう」
「レグルス様……。ありがとうございます」
「礼はいらない。エレービアの貴族がすまないな」
ため息を吐くレッグスにレグルス様が手を差し出す。二人は握手を交わす。
握手を済ませるとレッグスが自分の手に視線を向ける。そこにはレグルス様の馬車についていた紋章と同じ形のブローチが見える。
「それは我が家の紋章。何か困ったことがあったら強く握りなさい。いつでもどこへでも助けに向かう。本当にありがとう」
レグルス様が深くお辞儀をしてお礼を言うと執事のお爺さんやメイドさんも続いてお辞儀をしてくれた。
僕らもそれに答えてお辞儀をする。頭をあげて彼らと目が合うと微笑みあう。レグルス様が後ろ盾になってくれるってことかな。レッグスも貴族になったけど、子爵じゃ無理難題を言ってくる貴族もいるだろう。
いつでも頼ってくれっていうのはそういう輩から守ってくれるってことだろうな。
「ではお部屋へ案内いたします」
話が終わり、執事のお爺さんが部屋へ案内してくれる。とても大きなお屋敷、オーランスの僕らの家の二倍と言った感じかな。
「こちらから全てのお部屋をお使いいただけます。ご自由にお使いください」
「ええ!? ここからすべてってこの通路全部の部屋ですか?」
執事のお爺さんの説明に思わず声をあげるエミ。扉は6個、一つ一つの部屋が広いから通路も長い。庶民の僕らからしたら唖然としてしまうな。
「じゃあ私とフィールは一番手前で」
「じゃあ私達は反対の手前でいいわね」
フラムさんとエミが声をあげると男性陣も頷いて答える。
「あら? あなたは隣よ。一人で寝てよね」
「うっ。わ、分かっているよ」
グラフも入ろうとして追い出されてる。流石に別れた人と同じ部屋で寝るのは嫌だよな~。特にグラフはあまりいい旦那さんじゃなかったみたいだからね。
「そういえば、お風呂もあるらしい」
「オーランスの屋敷にもあったわね」
部屋に入ってくつろいでいるとレッグスが声をあげる。オーランスでは普通にお風呂に入れたんだよね。やっぱり、日本人は湯船に入らないとな~。
屋敷に住む前は温かいお湯でタオルを濡らして拭うだけだった。水は結構豊富なのに、湯船を知らないなんてもったいないな。
「フィールちゃん達も誘って行きましょう」
そう言ってエミが部屋を出る。フィールちゃんの入っていった部屋をノックするとフラムさんが扉を開けてくれる。
お風呂の話をすると二人も一緒についてくる。フィールちゃんがグラフのことを思い出して呼んでくれた。
「アキラ様。一緒に入りましょ」
「ええ!? いや、大丈夫だよ。僕はレッグスお父さんと一緒に」
「ダメです! アキラ様のことをお母さまに話さないと、あと私とお父様のことも」
流石に女性陣と一緒に入るとはダメだと思ったんだけど、フィールちゃんが頑なに僕を抱き上げる。彼女も5歳くらいの少女だから問題はないかもしれないけど。
「その子がフィールのご主人様になったわけね。可愛くて強いなんて凄いわね」
「うん、アキラ様は本当に凄いんだよ」
「そのようね。グラフなんて比べるのもアキラ様に失礼なくらいよね」
湯船につかってフラムさんが聞いてくる。フィールちゃんの答えを聞くと彼女は男湯の方を睨みつける。天井が繋がってるから聞こえてるだろうな。
しかし、目のやり場に困る状況だ。今はエミに体を洗われているので見れないけれど、僕も湯船に入ることになると大変な事になってしまう。
「……。まさかあなたが魔物になってしまうなんて、私のせいね」
男湯を睨みつけていたフラムさん、急に俯いて涙を流す。
「お母様……。私は大丈夫、アキラ様が助けてくれたから。それに人間だったころよりも強くなったんだよ。お空だって飛べるの。私、魔物になれてよかったと思ってる。アキラ様達にも会えたし、あの塔も出れた。町の外に出るなんて夢みたい」
フィールちゃんは嬉しそうに話してくれる。その声を聞くとフラムさんは彼女を抱きしめて涙を流す。
「アキラ様、エミ様。わたくしも皆様と共に行動をお供いたします。この命尽きるまでお使いください」
「え? あ、はい……」
エミに抱かれながら湯船に入るとフラムさんが彼女の両肩を抑えながら声をあげる。あまりの勢いでお胸が僕の顔を挟む。前世のお母さんが羨みそうなお胸だ。
この世界の人はお胸が立派な人が多いな。フィールちゃんもそのうち大きくなるのだろう。
「お母様! アキラ様が苦しそうです!」
「あら! ごめんなさいねアキラ様」
フィールちゃんが頬を膨らませながらフラムさんを止めてくれる。後少し遅かったら手で払いのけるところだった。流石に手で触れると鼻血が出る。
「私は光の魔法に長けています。回復魔法を主に扱っていました。フィールもそのせいで天使のような魔物になったのでしょう」
「天使のようなじゃなくて天使みたいだよ。魔族のおじさんがそう言ってた」
「魔族!? オーランスに魔族が来たの?」
そう言えば、魔族の話をしてなかったな。グダスの話をするとフラムさんは顔を青ざめさせる。
「四天王で最強のグダスじゃない!? それを撃退!? アキラ様って本当に凄いのね」
グダスのことを知っている様子。流石四天王と言ったところかな?
「凄いご主人様の従魔になれてフィールは幸せ?」
「え? うん! 最高に幸せだよ! アキラ様可愛いし」
「そう、それならいいのかしら。それにしても天使と言ってきたのがグダスなんて……。本当に天使なのね。フィールは」
感慨深げに呟いてフィールちゃんの頭を撫でるフラムさん。心配している様子だけど、フィールちゃんの幸せそうな表情で考えを改めてくれたみたいだ。
彼女達の主人として僕はみんなを守らないとな。
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