第35話 再開

「おお! よく戻った!」


 レグルスエイドに戻ってきた。

 レグルス様が迎えてくれて、屋敷に案内される。

 屋敷に入り食堂に通されると料理がどんどん並んでいく。


「オーランスからの使者が来たときは肝を冷やした。レッグス達を人質にして戦争がはじまると思ったからな。しかし、それ以上に驚きの提案だったな。ガハハ」


 料理を口に運びながらレグルス様は豪快に笑う。和平協定の話を持ってきた使者に驚いたんだろうな。


「フィール!」


「え?」


 レグルス様の話を聞いていると急に声が上がる。振り返る暇もなくフィールちゃんを抱きしめる女性。泣きながら彼女を抱きしめる女性。この人はもしかして?


「フラム!」


 女性を見て驚いてグラフが声をあげる。フィールちゃんのお母さんを探してもらうように話していたんだろうと思っていたけれど、この反応を見るとこんなに早く会えるとは思っていなかったんだろうな。


「気安く名前を呼ばないでください。あなたとは他人ですから」


「うっ……。す、すまない」


 フラムさんはグラフを睨みながら答える。彼は怒られてシュンとしてる。


「あら? グラフは普通の人間に戻れたのかしら? 欲望にまみれていたあの頃とは違うみたい?」


「あ、ああ。本当に申し訳なかった。あの頃の私はどうかしていたんだ」


 フラムさんは首を傾げながらグラフを睨みつける。それにただ謝るだけのグラフ。本当に後悔してるんだな。


「……もっと言ってやりたいけれど、なんだか私が悪い人みたいになっちゃうわね。もういいわ。そんなことよりもフィールったらこんなに大きくなって。親がいなくても子は育つっていうけれど、こんなに立派になって」


「お母様……」


 グラフにため息をつくとフィールちゃんを抱きしめる力を強めるフラムさん。本当に幸せそうに抱き合う二人。再会できてよかった。


「オーランスからの手紙が来たときはびっくりしたわ。丁度レグルスエイドの近くに幽閉されていたからよかったけれど」


『幽閉!?』


「そうよ。辺境にぽつりと屋敷を作って、そこに幽閉。私の家ってそういう罰が好きなの。まあ、おかげでお花畑を作れて私は良かったけどね」


 フラムさんの話を聞いてみんなで驚きの声をあげる。幽閉、罰……そうか、オーランスの宮廷魔術師と婚約するって政略結婚ってやつだよね。

 それをまっとうできなかったから家から追放されたのか。それにしてはフラムさんは元気だな。


「フィールの事が心配だったけれど、私ができることは何もなかった。ただただお花畑を作る日々を送っていたの。そうしたらフィールがレグルスエイドに来るっていうじゃない。居てもたっても居られなくて、走ってきちゃった」


「ええ!? 走って!?」


「ふふふ、私って逞しい母なのよフィール」


 フラムさんの話を聞いてフィールちゃんが驚きの声をあげる。

 走ってって比喩じゃなくて本当に走ってきたのか。僕みたいにステータスが凄いのかな?

 フィールちゃんのお母さんってことは、彼女の力にも関係してるのかもしれないな。


「コホン! え~積もる話もあると思うが腹が減っているだろう。まずは食事を済ませよう」


 レグルス様が咳ばらいを一つしてみんなを席に着かせる。フィールちゃん親子が並んで席につく。

 彼女を挟んで並ぶ姿は微笑ましい。まあ、グラフは複雑な表情だけどね。口から血が出ているようにも見える。ストレスかな?


「あらあら、フィール。お口についてるわよ」


「あ、ありがとうございます。お母さま」


「ふふ、フィール。そんな畏まらなくていいわよ」


「あ、はい」


「ほらまた~。ふふ」


 フィールちゃんとフラムさんは完全に親子といった様子だ。グラフは彼女と一緒の時間は長かったけど、フラムさんには勝てそうにないな。

 

「アキラ。お口についてるわよ」


 二人を見ながらスープを飲んでいるとエミが口を拭ってくれる。

 お母さんっていうのはいつでも子供のことを見てくれてるんだよな。前世のお母さんも……、最後の僕の様子が可笑しかったから夜に来てくれた。帰れたらお礼をいわないと。


「さて、食事も終えた。今日の宿は部屋を用意しておいたから自由に使ってくれ」


「ありがとうございます」


「いやいや、両国の共通の英雄レッグス殿にお礼を言われるほどの事はしていないよ。ガハハハ」


 食事を終えてそのままの席で話し出すレグルス様。レッグスのお礼に気持ちよく答えてくれる彼は本当に嬉しそうに笑い出す。

 僕の代わりに英雄になったレッグス。両国で有名になっちゃったんだよな。

 

「おっと、そうだった」


 気持ちよく笑っていると執事のお爺さんが宝石箱のような小さな箱をレグルス様の前に出す。すると思い出すように彼が宝石箱を開いて見せた。

 その中には不活性化された魔石がたくさん入っていた。


「これは今回のことと前回の魔物の群れの討伐に対してのエレービアからの報酬だ。ブラックゴーレムの魔石とスライムキングの魔石、更にコボルトロードの魔石だ。この屋敷が買えるほどの魔石だぞ」


 一つ一つ手に取って教えてくれるレグルス様。嬉しそうにしているところ彼の前に更に魔石を執事のお爺さんが置いていく。


「おっと、忘れていた。これもあったな」


 おかれた魔石を手に取って口角をあげるレグルス様。そんな特別な魔石ももらえるのか。


「これ一つでこのレグルスエイドを買えるほどのものだ。此度の和平協定の功績を考えるとこれでも足りないほどのことだな」


 魔石をまじまじと見つめながら嬉しそうに話すレグルス様。まるで自分のことのように喜んでくれてる。レッグスも嬉しそうにしてるな。


「【マウンテンタートル】という魔物を知っているか?」


 レグルス様が問いかけてくる。するとグラフが顎に手を当てて口を開く。


『マウンテンタートル』? レグルス様の問いにみんなで首を傾げる。

 すると得意げにグラフが席を立つ。


「【マウンテンタートル】。名前の通り、山のように大きな亀の魔物。甲羅はオリハルコンを超える硬度を有し、歩いた後には荒野が広がる。居るだけで災害になると言われる」


「おお、流石はオーランスの宮廷魔術師殿」


「元ですが……」


 グラフが得意げに説明する。フラムとフィールを一度見ると席に戻る。

 なるほど、二人にお父さんは凄いというところを見せたかったのか。


「……本当に少しは変わったみたいね」


 そんなグラフに微笑むフラムさん。少しは仲良く成ってくれるかな。

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