第6話 従魔

「アブアブ」


 ゴブリンの魔石を回収して活性化させる。これでゴーレムの魔石を合わせて二個になった。

 まずは召喚した時にどうなるかを見て見ないとな。


「バ~ブ……」


 確か、召喚にはMPを注いでいくんだよな。それから魔物の名前を叫べばいいんだっけ。……叫ぶ。

 心に思うだけでもいいのかな? ゴーレムだから【ゴレム】なんてどうだろう。

 そう考えているとゴーレムの魔石が震える。怖くなって放り投げると黒い空間が開く。黒い空間は大人が一人入るくらいの大きさだ。

 僕は既視感を感じて、その黒い空間に入ろうと近づく。だけど、入ろうと思ったら黒い空間から岩の体をしたゴーレムが出てきて入れなかった。


「ゴッ!」


「アブ!?」


 空間から出てきたゴーレムが僕を抱きかかえる。肩車すると元気に両手をあげてガッツポーズ。僕の従魔になったってことかな?

 だけど、僕の目的は地球に帰ることだ。今度はもっと早く黒い空間に入るぞ。


「バブバブ!」


 ゴブリンの名前、【ゴブラ】と考えて放り投げる。計画通り、黒い空間が現れた。僕は全速力で黒い空間に飛び出す。


「アブ!?」


 黒い空間に入れた……そう思ったら見えない壁が邪魔をして入ることが出来なかった。少しするとさっき倒したゴブリンよりも顔の優しいゴブリンが出てきて、僕を抱き上げる。そう簡単にはいかないってことか。


「ゴッ?」


「ゴブゴブ?」


 頭を抱えて考え込む僕に対してゴレムとゴブラが首を傾げる。

 何で召喚したのって感じなのかな。そういえば、召喚したこの子達は魔石に戻せるのかな? 再召喚するときも黒い空間が現れるのか? やってみよう。


「バブ!」


 頭で【送還】と考える。すると魔石の真上に黒い空間が再度現れる。

 掃除機のように二人を吸い込むと黒い空間が消えていく。

 なるほど、送還の時も黒い空間が作られるのか。本に書いてあったと檻だけど、これも僕は入れないんだろうな。

 しかし、黒い空間に入れたからと言って地球に戻れる保証もない。あの空間で目的地を探す方法が必要だ。

 

「アブ……」


 黒い空間は見つけることが出来た。今の状況じゃ打破できない問題だらけ、手詰まりだな。どうしたものか……。


「ちょっと、分かっているでしょうね」


「アブ?」


 手詰まりで悩んでいると湖に声が響く。誰か来た? 隠れよう。

 僕は魔石を服の中にしまい込んで木陰に隠れる。


「分かっているさ。それよりも報酬を忘れるなよ。あと、女は好きにしていいんだよな?」


「こっちの心配はしないでよね。これでも村の代表なんだから、金はたんまり横領しているわよ。居なくなればいいんだから何でもいいわ」


 男と女が話しこんでる。何の話をしているのか分からないけど、あまりいい話じゃないのが伺える。

 あの女性は見たことある。藁を分けてもらう時に見た人だ。答えてくれたのは男だったけど、その人が視線を送っていたのが印象に残ってた。

 村の偉い人ってことかな。あまり印象は良くないな。


「あのレッグスとか言うのはゴーレムも倒す男なんだろ? 盗賊風情の俺達で勝てるのかね?」


「ふふ、私だってあんたらが強いなんて思ってないわ。安心して、薬を盛っておくから。明日、村で歓迎会をするのその時に薬を飲ませて家に返すわ。その時に」


「ははは、あんた悪だな~。じゃあ、少し安くしてやるよ」


 男の声にニヤっと笑う女性。

 どうやら、標的は僕らみたいだ。僕らを追い払うどころか、始末したいみたいだな。盗賊まで雇うなんて碌な人じゃないな。ここは少し懲らしめてやるか。


「じゃあ、また明日ね」


 女性と別れる男。僕はその男の後ろをつける。


「は~、やっすい仕事だと思ったらなかなかの上玉だった。子供を生んじまっても十分売れそうな体をしてやがる。貴族に売る前に楽しませてもらえそうだし、役得だぜ」


 森の中を歩きながら呟く男。頭の後ろで手を組んで明日のことが待ち遠しい様相だ。エミが気に入ったみたいだ。僕は怒りで頭が沸騰しそう。

 この世界に転生してしまってレッグスとエミのことを両親とは思えずにいたけれど、この男の声を聞いて初めて二人が両親なんだと思えた。守りたい、こいつらを許せない、そう思えた。

 この体の両親は二人なんだよな。今まで僕は少し薄情だったな。


「おう、依頼人はどうだった?」


「ああ、気前よく金を払ってくれそうだぜ」


 男をつけると仲間の所にたどり着く。森を抜けた街道に馬を止めていたみたいだ。二人の仲間が男の声に喜んでる。


「しかし、あの依頼人も馬鹿だよな」


「ああ、そいつらを始末したら次はお前達だっていうのにな。兵士のいない村だと俺らに教えてくれてありがとうございますっだ! ははは」


 男たちは面白おかしく話してくれる。結構離れてるのに話してる内容が丸わかりだ。この人たちは始末してしまおうか。そうすれば、他の仲間があの女に裏切られたと思って仕返しに来るはず。

 僕は人を殺すなんてしたくないけど、狙ってきてるんだから仕方ないよな。


「バブ!」


 ゴレムとゴブラを召喚。急な魔物の出現に馬が暴れまわり、男たちはしりもちをつく。


「ひ、ひぃ!? ゴーレムとゴブリン!?」


「ど、どこから!? ここいらでゴーレムなんかいたなんて聞いたことがないぞ」


 男たちは狼狽えつつ剣を抜く。といってもゴーレムに剣が効くはずもない。ゴーレムとその肩に乗ったゴブリンが応戦する。ゴブリンは器用に剣を奪い鮮やかに男達を切りつける。そして、ゴーレムがとどめを刺す。あんまり見たくない光景だな。まさにパワーこそ力だ。

 人間は霧散して消えることはない。死体が残る。この死体を残しておくと【アンデッド】歩く死体になってしまうらしい。しっかりとゴレム達に地面埋めて始末してもらう。戦利品の剣3本と馬3頭はもらっておこう。

 ふぁ~……。流石に眠くなってきたので今日はこれまで。収穫はあったものの不安の残る夜だったな~。色々と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る