第2話 今世の両親

「お母さん……」


 真っ白な世界で何日かが経った。正確な時間がどれだけ進んだかわからない。

 少なくとも3日くらいの時間をこの世界で過ごしてると思う。それほど長く感じてる。

 その間も悲痛なお母さんの鳴き声が思い出される。僕は……死にたくなかった。この姿を、声を聞きたくなかったから。


「いつまでこんなところにいさせる気だよ!」


 真っ白な世界に嫌気がさして声を上げる。

 それでも世界は何も答えてくれない。僕の大きな声が虚空に消える。何も起きないとおもいつつも周りを見回す。

 すると真っ白の世界が変わっていく。

 漆黒よりも黒い世界に変わっていく。じわじわと燃えているかのように黒い世界が近づいてくる。

 怖い! 恐怖に駆られて黒い世界から逃げる。でも、その黒い世界は反対からも迫ってきていた。

 そうか、これで終わるのか。僕は終わりを感じて目を閉じた。


 何も感じない……、黒い世界が僕の周囲を黒く変えてしまったはずなのに僕事態には何も起きない。体は動かせなくなったけど、声を出すことはできないみたいだ。


「エミ! 元気な男の子だ!」


「ああ、レッグス! よかった!」


 目を閉じているとそんな声が聞こえてくる。びっくりして目を開くと金髪の少女と少年が僕の顔を覗いているのが見える。二人は僕よりも少し年上といった感じ。そんな二人に抱かれてる?

 

「おぎゃ! おぎゃ~!」


 びっくりして口を開けると声を上げることが出来た。だけど、人の言葉にならない声。それに驚いて更に声をあげてしまう。


「ははは、力強い泣き声だ! 将来有望だな~」


「ふふ、そうね。レッグスみたいな戦士になれるわね」


 二人の嬉しそうに話すと唇を重ねあう。

 僕は嬉しそうにしてる二人を見て、自分を見てみる。

 

「バブ……」


 思っていた通りだ‥‥。僕は転生した。

 別の国の人の元に生まれた? でも、戦士とか言ってる。もしかして、


「エミのように魔法も使えるようになるだろうか?」


「それはこの後次第ね。頑張りましょレッグス」


 魔法‥‥二人の話を聞いて確信が持てた。

 僕は異世界に転生してしまったんだ。


「名前は考えてる?」


「ああ、女の子ならイセリナ。男の子ならアキラだ」


 え!? 二人が僕の顔を覗きながら話す内容に驚く。僕の名前が挙がったんだ。

 イセリナの名前はわかるけど、アキラはおかしい。洋風な名前があがるはずだよ。


「アキラなんて珍しいわね。東方の名前よね?」


「ああ、昔の知り合いの息子がその名前だったんだと、いい名前だと思って拝借させてもらった。もうあいつには会うことはないと思うけどな」


 エミの疑問に答えるレッグス。東方の国ってことかな。日本のような国があるのかもしれない。





「アブアブ‥‥」


「あらあら、アキラちゃん。起きたのね~」


 僕の名前を決めた日から次の日。出来ることもなくて目の前で手を振り振りと横に振ってみる。

 するとエミが僕を抱き上げてくれる。そして、胸をはだけてくる。


「アブアブ!?」


「あら? お腹がすいたんじゃないのね」


 どうやら、おなかがすいて声を上げたと思っていたようだ。そうか、僕は自分でものを食べることもできないのか。なんだか恥ずかしいな。


「おもらしもしてないわね。暇だったのかしら。じゃあ、こんなのはどう?」


「バブ!?」


 エミはそう言って僕の目の前で指から火をつくりだす。魔法だ!


「アブアブ!?」


「あらあら、魔法に興味津々ね。じゃあ、次は水よ」


 火を消すと水も出し始める。よく見ると台所のシンクっぽい家具には蛇口がない。

 水桶に井戸の水を持ってきて使っていると思っていたら自分で作り出すことが出来るようだ。凄い……。


「ふふ、魔法が本当に好きみたいね。もう少し大きくなって文字も読めるようになったら本棚から好きに読んでいいからね。もう少し待ちましょうね~」


 エミは話しながら視線を二人の寝室の方へと向ける。どうやら、魔法に関する本があるようだ。


「私は火と水の魔法が使える。レッグスは土だけ。複数の属性の魔法を使える人はとても稀なのよ。お母さん凄いんだから!」


 ドヤッと胸を張るエミお母さん。属性っていうのがあるのか。


「バブバブ……」


 エミの魔法を見て次の日。寝室から出てくる両親と交代するように寝室に入る。

 二日目でハイハイしている僕は凄いんだけど、苦労した。筋肉が弱すぎるし、エミにすぐに見つかってしまうんだ。

 実は魔法を見た日も何度か試みたんだけど、捕まってしまった。寝室には大事なものが多いから入れたくないみたい。本もその一つかもな。

 だけど、魔法は絶対に学びたい。だって……。日本に、お母さんの元に帰りたいから。


「おい、アキラがいないぞ!?」


「え!? ……もしかして~」


「バブ!?」


 やばい、寝室に入ったことがバレてしまった。少しすると両親二人で部屋を覗いてくる。僕は本棚の前でニコッとほほ笑む。


「凄いなアキラは。もうハイハイをしてるのか」


「そうなのよ~。昨日魔法を見せてから凄いの。寝室に入りそうになって。危険なものも多いからあんまり入ってほしくないのに」


 嬉しそうに僕を抱き上げるレッグスにエミがあきれたように声を上げる。


「魔法を見せてから? ってことは魔法に興味があるってことか? 赤ん坊が?」


「そうなるわ。え? もしかしてアキラは魔法の本があるっていったから入ろうとしたのかしら?」


 僕の意図を呼んでレッグスが声をあげるとエミが本棚から魔法の書をより出す。

 タイトルは【ゴブリンでも魔法が使えるようになる魔法書】だ。

 ゴブリンって魔物のかな?

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