第7話 蘭世の涙

「そうか、蘭世と蓮汰は2人とも就職にしたのか。」

「うん・・・」


あたしはお父さんの住むアパートで食事をする。

お父さんのお手製のカレーライスが大好き。

じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、豚肉に市販のカレールウ。

いたって普通の、簡単なカレーだけど、お父さんの愛情を感じられるこのカレーが、あたしは大好き。


「ああ、やっぱり美味しいなぁ!このカレー!」

「そうか?おかわりあるぞ。たくさん食べろよ。」

「うん!おかわりする!」


お父さんは嬉しそうどけど、瞳の奥はとても寂しそうだった。


「2人とも、進学したいんじゃないのか?」


スプーンを止める。


「進学するだけの金なら、父さんちゃんと出すぞ。」

「・・・・・」


顔を上げる。


「あたしは就職でいいんだけど・・・蓮汰は・・・進学クラスで頑張ってたし、ホントは進学したいんだと思う。だけど・・・お母さんがダメだって・・・」

「お母さんが?なんで?」

「お金かかるし・・・それに、あたし達に家を出て行ってもらいたいんだと思う。」


お父さんの顔がこわばる。


「出て行ってもらいたいって・・・なんで?!」


あたし戸惑ったけど、意を決してお父さんに話した。


「お母さん、新しい家族できたから。新しい旦那と、赤ちゃんと暮らしたいんだと思う。」

「なに!?新しい旦那!?家族!?」


あたしは堪えていた感情が一気に込み上げ、涙が溢れ出した。


「お父さん、あたし達を引き取ってよ。あたしも蓮汰も、祐奈もあの男と暮らすの嫌だよ。祐奈はまだわかんないから、男は手なづけようとしてるけど、あたしと蓮汰は大っ嫌い!!」


うええええん――――!!!!


ダメだ。

こらえられない!!

あたし、嫌だよ。お父さんと暮らしたいよ。


「ごめんな。辛い思いさせて。そんな事になってるなんて知らなかったから。」


お父さんは優しい。

お父さんと暮らしたいよ。


それから2時間くらい、色んな話をして、お父さんはあたしを家まで送ってくれた。

あたしが車から降りるまで、お父さんは気を使って、明るい話をしてくれた。


「ありがとう。」

「蘭世、お父さん、必ずお前達をなんとかするからな。また嫌な事や辛い事があったら、すぐに言うんだぞ。我慢するなよ。」

「うん。ありがとう。またね。」


あたしはお父さんと別れた。


「ただいま。」


リビングでは、新しい母の旦那と、祐奈がテレビを見ながら笑っている。

旦那はあたしに気がついたけど、あえて目を合わそうとしない。


「おお、蘭世、帰ってきたのか。」


蓮汰が脱衣場から風呂上がりの理吏をバスタオルでくるんで抱いてきた。

なんで、蓮汰あんたがやってるの?

旦那は知らん顔してテレビを見てる。

それでも父親?

我慢できない!


「お母さん!なんで蓮汰に理吏の事やらせてんの!?父親がいるじゃん!父親がやればいいじゃん!」


脱衣場で体を拭く母に、あたしは怒鳴った。


「お父さん、仕事終わって疲れてるの。ゆうちゃんの面倒見てくれてるんだし、蓮汰ができるんなら、蓮汰がやればいいじゃない。」

「蓮汰だって、学校終わって、ご飯作って疲れてるし、勉強だってしなきゃいけないじゃない!」


母は髪をバスタオルでワシワシと拭きながらすました顔をする。


「進学するわけじゃないし、勉強なんていらないでしょ。」


カアアア―――!!!

頭に血が登るのがわかる。

怒りで頭が痛くなりそう。


「蓮汰が・・・どんな思いで勉強してるか、あんたにわか・・・」

「ごめん、蘭世ちゃん、俺がやれば良かったね。ごめんね。」


旦那がしらじらしく会話に入ってくる。


「裕二君はいいのよ。疲れてるんだから、こういう時は家族で協力しないと。」


母が旦那の肩を持つ。

やってらんないわ。

あたしは部屋に入った。

バカヤロ!

バカヤロ!

母も旦那も、何も言わない蓮汰も、みんなバカヤロだ!

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