第3話 可哀想なのは誰?

「へえ。真奈ちゃん、あの映画、見にいったんだあ。」

「うん。すごい面白かったよ。」


学校の昼休み、真奈ちゃんと、クラスメイトのゆなちゃんと、ともなちゃんと一緒に昨日の映画の話で盛り上がる。


「いいなぁ。ともなも見に行きたいなぁ。」

「うちのママに聞いてみて、送ってくれるって言ったら、ゆなと一緒に行こうよ。」

「うん!一緒に行こう!」


いいなぁ。ともなちゃんのママも、ゆなちゃんのママも、みんな免許もってるから誘う事できて。

私も、『うちのママが連れてってくれるよ!』て言ってみたいなぁ。

ふと、斜め前に座る倉田さんに気づいた。

正しく言うと、倉田さんの筆入れに気づいた。

この間、近くのショッピングモールの雑貨屋さんで見つけたやつだ!

あの時はお金無くて買えなかったんだけど、倉田さんは同じの買えたんだ。

・・・・ムカつく・・・

倉田さんなんて、大人しくて、いっつも1人で、友達もいないくせに、なんで、あの子が持ってて、私が買えないの?


◇◇◇◇◇


「ねえ、この間、かわいい筆入れ見つけたの!買ってよ〜!」

「なに言ってるの?つい最近新しい筆入れ買ったとこでしょ。買わない!」

「買ってよ!買って買って!」

「買わない!」


夕飯時、私は日本酒を飲みながらスマホをいじる母にねだるが、ダメの一点張り。

ムカつくなぁ。


ご飯が終わると、私は自分の部屋にこもる。

スマホで動画を見る時間が、家に帰ってからの一番のたのしみ。

大好きなKpopアイドルの動画。

かわいいなぁ。

私も、こうなりたい。

ダンスを真似てみたりする。

はぁ。私も、こうやって、みんなに見てもらいたいなぁ。


◇◇◇◇◇


授業中。

斜め前の席の倉田さんの筆入れが、やっぱり気になって仕方ない。


チャイムが鳴り、授業が終わる。


私はスッと席を立つ。


「麗華ちゃん、なに?」


倉田さんの前に立つと、私は、ガッと筆入れを掴み、そのまま窓の外に投げ捨てた。

驚いた顔の倉田さん。

シャープや消しゴム、定規が散らばりながら空を舞い、落ちていった。

ここは3階。

下にいる人達が騒ぐ声が聞こえる。

泣き出す倉田さん。


「どうした?なにがあった?」


近くにいた男子が騒ぎだす。


「新山が倉田の筆入れを窓から投げた!」

「マジで!?」

「なんで!?やべー!!」


クラス中が騒ぎだした。

ふんっ。ウザっ!!


「麗華ちゃん・・・」


真奈ちゃんと目が合う。

なんか・・・引いてる・・・?

なんで・・・倉田さんが悪いんじゃん。

あたしが買ってもらえない筆入れ持ってたから・・・

なんで泣いてんの?バカじゃない?被害者ぶって。

泣きたいのは私。だって・・・筆入れ、買ってもらえないんだよ?可哀想なのは、私でしょ?

先生が飛んできて、私は別の部屋に連れて行かれて、こっぴどく叱られた。

家に帰ると、相変わらず母はビールを飲みながら夕飯を作ってる。

まだ学校から連絡はないみたい。

夕飯ができたくらいの時間になると、


「ただいま。」


父がやってきた。

ただいまって言ってるけど、ここで父は暮らしてるわけじゃないんだけど。

3人でご飯を食べてると、母のスマホが鳴った。学校からだ。

母の顔色が変わった。

終わった・・・・



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