18

「なあ」

 いつもの公園で、隼人が理に話しかけた。

「こうやって会うようになった初めの頃、俺が死ぬなら自分も死ぬって言ったけど、あれ、今も変わってないのか?」

 理はしばらく黙って、ようやく声を出した。

「……うん」

「何だよ、ためらいがちに。別にいいんだぞ、心変わりしたなら。誰も一緒に死んでくれなんて頼んでないんだから」

「そうじゃなくて、ああ言われて柴崎くんは迷惑だったかなと思って。だけど、あれで死ぬのを思いとどまったなら良かったかもというのもあるし、どう答えるのがいいのか考えてたんだ。でも、僕、そんな器用なことできないから本心を言うと、まったく気持ちは変わってないよ」

 隼人は死ぬと口にしたことを冗談と言ったが、理は本音が含まれていると見抜いていたし、理が見抜いていることを隼人もわかっていた。

「そうか」

 そして理の指摘通り、あの台詞で死ぬのを思いとどまったし、悩む羽目になったというのに、隼人はあっけらかんとそう言葉を発した。

「じゃあ、『俺は死ぬけど、お前は頑張って生きていってほしい』って俺が頼んだら、どうだ?」

「え……」

「正直に答えろよ。真剣に訊いてるんだからさ」

「……多分、最初は頑張ってみようと思うけど、やっぱり駄目になる気がする。あの柴崎くんでも生きていけない世の中を、僕が生き続けていくなんて無理だって考えになったりして……」

 理はそう口にして、隼人の様子をうかがった。

「なるほどな。わかった。なら、死ぬのはやめだ」

 隼人は変わらずサバサバとした態度だ。

「その代わりと言っちゃなんだが、俺、政治家になるよ」

「え? 政治家?」

 理は目を丸くした。

「そう。しかも、俺だけじゃなくて、お前もな」

「ええ? 僕も? 無理だよ、僕、バカだから」

「そんなことないだろ。学校の勉強なんてたいして参考にはならないけど、お前、成績いいほうだったじゃねえか」

 理はいじめられっ子だったし、運動も得意ではなかったために、何もかも駄目みたいなイメージを周囲に持たれていたが、確かに、中学生の時点の五段階評価で、四が半分で、五と三が四分の一ずつくらいの、かなり優秀な成績だった。

「でも、政治家でしょ? 法律とか、世の中のあらゆることを知っていて、しかもちゃんと理解してないといけないだろうし……」

「大丈夫だよ。選挙でよく、そんなに賢くないだろう有名人でも立候補したり、当選して問題なく活動したりしてるだろ。一般常識さえありゃ政治家はやれるよ。もちろん多少は勉強してもらうことになるだろうけど、フォローするしさ。どうだ? 一緒に死んでくれるほどの度胸があるなら、一緒に政治家になるなんて遥かに簡単だと思うけど、やってくれないか?」

 そして隼人は小学五年での最初の出会いから一番というくらいの熱い眼差しを理に向け、一言付け加えた。

「頼むよ」

 さすがに少し間はあったものの、それに対して返す理の言葉は他にはあり得なかっただろう。

「わかったよ。足を引っ張っちゃうと思うし、本当に平気かなって気持ちが強いけど、柴崎くんがそこまでお願いしてくれて、ともに頑張れるなら」

「ありがとう」

 隼人はにっこりと微笑んだ。

「あ、そうだ。僕からも話があるんだけど、いい?」

 理が言った。

「ああ」

「平井さん、いたじゃん? 中学一年のとき、僕は二年でもだけど、同じクラスで、頭が良かった」

「平井奈穂子だろ。覚えてるよ、というか、最近会ったんだけどな」

「え? そうなの。じゃあ、もういいのかな?」

 理は、後半部分は独り言の感じで口にした。

「どういうことだ? ちゃんと説明しろよ」

「ああ、うん。僕も少し前に会ったんだ。うちにやってきたんだよ、突然」

「マジで?」

 隼人は驚き、再び真剣な顔になった。

「うん。それでさ、柴崎くんの実家は、もう前の場所にはないんだよね?」

「ああ。叔母さん、引っ越したからな」

 彼女は、隼人が出ていったこともあり、近隣ではあるが、別のアパートに移っていたのだった。

「だから、そこへ行ったらしくて住んでなくて、柴崎くんが今居るところがわからないんだけど、連絡先でもいいから知らないかって訊かれてさ。知ってるけど、勝手に教えていいかわからないって答えたら、じゃあ平井さんが会いたがってることを柴崎くんに伝えて、その返事と、大丈夫だったら柴崎くんの連絡先も教えてほしいって、向こうの連絡先を教えられたんだ」

「それで、用件は? 何か言ってなかったか?」

 隼人は前のめりな姿勢になって尋ねた。

「よ、用件はわかんない。ごめん、訊けばよかったね」

 興奮した様子の隼人に、動揺しながら理は答えた。

「ただ、会って話がしたいとは言ってたよ」

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