第28話

「見えにくければ元に戻すけど、差し支えなければそのままな。




美奏だって、みんなと同じように、 席替えしてみたいだろ?」



漁師町の言葉丸出しのおばあちゃん先生は、


そう言っていたずらっぽく笑った。



年齢のわりに、遊び心のある先生だったと思う。



あたしはこの先生に、


前から2番目の席に座ってみたいという願いも叶えてもらった。



みんなは、「ちっちゃー‼」って笑ったけど、


あたしにとっては、ずっと憧れてたこと…。



それ以上は無理だったし…



単眼鏡 ──


中途半端に遠い物に対して強い道具で


あたしの大事な相棒。



でも、やっぱり限界はあって



席に着いたまま、正確に字を読みとれるのは、


2番目までだった。



それでもやっぱり、仲間に入れたのは嬉しかった。



違う席から見渡した教室の風景を


あたしは一生忘れないと思う。




…って、



席順ひとつで何思い出にふけってんのよ! あたし‼




せっかく新しい生活が始まるんだから、


何だってポジティブに受け入れなきゃ‼



「美奏っち。 だいぶ席離れちゃったね」



いつの間にか、


直ちゃんが戻ってきて、あたしの後ろに立っていた。

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