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蕾との出会いは大学のサークルの新入生歓迎会。
当時の私はその会にあんまり乗り気ではなかったけど、たまたま同じ授業を受けていた子に心細いからという理由で少し強引に連れられ新歓会に参加した。
その新歓会は今ではよくあるカフェバーを貸し切って飲み食いするものだったけど、高校生の時にはしたことない外でのパーティに私は緊張して何も喋れずにいた。
けれど、一緒に来た子は難なく先輩たちと馴染んでいてストローの刺さっていないドリンクを一口もらっている始末。
私なんかいなくても大丈夫じゃん。
初を利用したあの子とは仲良くするのはやめようと心に決めた私は少しずつ出口の扉の方へ逃げ、お店の雰囲気が温まるごとに自分の気持ちはどんどん冷めていくのが分かり、今のとこ文芸サークルの名を借りた呑み会サークルに嫌悪感が生まれた。
そんな私と同じタイミングで空のグラスをテーブルに置いた蕾は私と対照の角の席に座っていて、自分と全く同じ行動をした私を見つめ返してきた。
それが私たちの出会い。
嫌々参加した呑み会で外れ者同士が同じ匂いを感じて仲良くなる。
それはもう一瞬の出来事で私にとって初めての男友達に蕾はなってくれた。
けど、そう思ってたのは私だけだったみたい。
蕾「…す、すき。」
と、いつもより小さく口を開けて金平糖がぽろりと落ちるように好意を呟いた蕾は吹き抜けのネットカフェの個室で携帯を弄っていたはず。
そのそばで新作の漫画を読んでいた私はまた推しキャラが増えたんだと勘違いして蕾が開いている携帯画面を見ようと、自分の目線を漫画から離すと蕾が真っ赤な顔を見せて気づかせてくれた。
瞳「え…っと…」
蕾「好きで…、瞳が好きで…、いつも。」
蕾は好きと言う私の目を見ずにその日グッズ公開をしていた公式サイトを開いている携帯を命綱のように強く握って目をパチパチと弾けせていた。
蕾「好きだから会うの、嬉しくて…。もっと2人の時間、作って欲しくなった…。」
瞳「んー…と…、もっと遊べればいいの?」
その時の私はぶきっちょな蕾が普段よりも可愛く思えて好意を伝えられてるのに、少し意地悪な発言をしてしまった。
今やり直せるとするなら、私も好きって伝えてたな。
蕾「遊ぶっていうか、…と、かな…。」
瞳「ん?」
蕾「…デート。瞳さんとお付き合いしたいです。」
突然敬語になった蕾は私に顔をまっすぐ向けて緊張と想いの爆発で潤む目を見せてきた。
瞳「私で…、いいの?」
当時の私は地毛が日焼けをして色が抜けたダークブラウンのミディアムヘアで、おしゃれで伸ばしてる訳じゃなく髪の毛が結べるからという理由で中途半端な髪だった。
しかも、メイクと言えるものはテカリ防止が出来るベビーパウダーとピンクの色付きリップ。
それは私の血色の悪さを隠してくれるから塗っていたけど、蕾と半分こするようになる関係にその日になるとは思わず、焦って無い爪でほじくって色を付け足してからキスをしたのをいつまでも覚えてる。
けど、蕾はリップの味が好きじゃないみたいでキスをする前はいつも親指で強引に拭ってからキスをしてた。
だから付き合うことになって恋人の契約を交わすようなキスをした交際初日にしかリップの色を半分こ出来なかった。
そんなメイク嫌いな蕾とは付き合う前から2人だけでサークル活動をしていたからそれは変わらず続行。
変わったのは私たちが手を繋ぎ始めた大学1年の秋。
少し肌寒くなってきて丁度いい体温を分け合っていたところを大学の友達数人に見られ、アドバイスをもらうようになった。
瞳は地毛の黒より明るい髪が似合いそう。
瞳は肌が白いからこっくり濃いメイクが合いそう。
瞳は胸があるからピタッとした服装が似合いそう。
そんなことを当時仲良くしてくれた子たちに言われて、まずは見た目の6割と言われていたヘアスタイルを思いっきり変えてみることにした。
変えてみると言っても、長さはそのままで髪色を流行りだと言われたミルキーブラウンの明るめの茶髪にしてもらった。
その色は学校生活で何度も目にしてきたもので可愛い子がみんなしている認識だったから私は蕾に可愛いと言ってもらえるかなと思い、待ち合わせのカフェで一足早くお揃いの色をしているカフェラテを口に含んで体を温めているといつものように待ち合わせに10分遅れてしまう蕾が駆け足でやってきた。
しかも、その日はバイトが休みで日中寝ていたらしく後ろ髪には寝癖で天使の羽が出来ていた。
私は天使の蕾がいつ気づくかなと思ってそっと見守っていると、蕾は店内を見渡し私を視界に入れたはずなのにお店の外に出ると携帯を耳に当てて私に電話をかけてきた。
瞳「もしもし。」
蕾『お店の前にいるよ。』
瞳「私はお店の中にいるよ。」
蕾『え?』
蕾は鏡越しでとても驚いた顔をしてまた店内を見たけれど、私を見つけられないらしく1人で首を傾げた。
私は色が変わってしまったとは知らない蕾に人前では恥ずかしかったけれどそっと手を振ると、蕾は口を開けて驚きそのまま走ってきて私の隣に座り、明るくなった私の髪色をじっと無言のまま見つめてきた。
瞳「どう…、かな?」
私は顔にも口にも感情を出さない蕾に問いかけてみると、蕾は開いていた口を閉じてその日初めて私と目を合わせてくれた。
蕾「…キャラメルみたいだね。」
蕾はポツリと感想を言って、自分の好きなアメリカンコーヒーを頼みに私の隣からいなくなった。
それが私と蕾の思い違いの始まりだと思う。
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