おしまい
19:22
「ごめん、一本だけ電話入れないと。」
「うん。待ってる。」
私は半月前に婚姻届を一緒に出しに行った
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
私の目の前には温かいミルクティーが置かれ、稜平さんの席の前にはアイスコーヒーが置かれる。
私は外で電話をしている稜平さんを横目に少し焦りながらテーブル脇にあるスティック状の砂糖を3つ取り、1度に頭を千切って一気にミルクティーへ流し込む。
そしてまたスティック状の砂糖を2つ取ってミルクティーに入れ、証拠隠滅するために空になった砂糖袋に細く丸めた紙くずを4セット入れて口を軽く丸めて閉じ、いい感じに膨らみが出来た空の砂糖袋をカップの向こう側に置く。
仕事の電話をしている“オーガニック”思考の稜平さんは“健康”というより、
私はハラハラだった胸を撫で下ろしながらティースプーンで砂糖とミルクティーを混ぜ合わせ、外で電話をしている稜平さんの背中を横目に人の流れをぼーっと眺める。
すると、あの日の私のように前髪ぱっつんで黒髪のゆるふわセミロングの女の子が駅へ走って行っていくのが見えた。
今の私は稜平さんが似合っているというかき分けボブにしたけれど、自分自身似合ってると思ったことは1度もない。
というより、これだと自分の好きじゃない濃いめの困り眉が自分の心情を全部表しちゃうから見せたくない。
「お待たせ。」
「うん。先に飲んでたよ。」
電話を終えた稜平さんが席に着き、私のカップに目線を落とすと一瞬きゅっと眉が寄る。
稜平「…
幸来未「だって…、甘いの好きだし。」
稜平「半分?」
幸来未「うん。溢れちゃうからちゃんと口閉めてるでしょ。」
稜平さんとのカフェタイムは目が盗めた時にだけ私の好きな甘さになる分の砂糖を入れ、盗めなかった時は稜平さんが私のドリンクにサラッと粉雪も降らない程度の砂糖しか入れてくれない天国と地獄のような勝負を1人でして、いつものドリンクを楽しんでいる。
今日は賭けに勝ち、自分の好きな甘いミルクティーを飲めてラッキーだなと、今年イチと言われる寒波で冷えた指先を温めながらカップに口をつける。
うん。
やっぱり、この甘さと紅茶の渋味が好きなの。
コーヒーのツンと鼻を突く苦味もたまにはいいかなって思うけど、やっぱり私は紅茶のまろやかな渋味が鼻の中に残り続ける感じが好きなの。
稜平「ここのミルクティー、そんなに美味しいんだ?」
幸来未「うん。ジャスミンっぽい味する。」
私はまた自分の感情が勝手に出ていていたことを稜平さんに見られ、心臓がきゅっと痛くなる。
稜平「ブレンドされた茶葉が売ってたら買おうか。」
幸来未「…いいの?」
稜平「うん。ちょっとレジ横の棚にあるか見てくるよ。」
幸来未「ありがと。」
稜平さんは私の眉を見て嬉しそうに有名高級店のパイ生地みたいな笑顔を見せ、茶葉があるか見に行った。
今日の眉はいい活躍をしてくれたなと私は1人で笑みをこぼしていると、カフェの斜め前にある横断歩道の前にわたがしのような真っ白いボアコートを着ている男性が信号無視をする人の流れを逆らうように立ち止まった。
その行動に私はあの人を思い出す。
懐かしい思い出を蘇らせたその男性を観察していると、ポケットの携帯を取り出すために私に横顔を見せてくれた。
幸来未「…あ。」
その横顔で私のメイトくんだった君との思い出がポップコーンのように弾けて、溢れ出す。
けれど、そんな私に気づかず、君は電話をしながら青信号になった横断歩道を左右確認して渡り、向こう側の広場にある有名になってしまった松ぼっくりが降る木の下で手を振っていたあの写真の女性に駆け寄りながら手を振り返す。
すると笑顔の君は振っていた手で女性の手を握って駅の方を指し、一緒に歩き始めた。
そうだった。
君も見つけたって言ってたもんね。
お互い、居場所が出来てよかったね。
うん。
本当に。
私は少し渋味が増した気がするミルクティーをまた口に含みながら、あの日のことを思い出す。
そう。
君と私が出会ったあの駅があるこの街であった事を。
環流 虹向/23:48
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