慾張

障害

つまんなー。


はあ…。


なんなの、高校生って。


私はいつまでたってもうるさい教室で物静かな担任が淡々と今後の予定を説明しているのを聞くけれど、春の陽気で眠気がやってきて何言ってるのか分からなくなる。


もう、この眠気に任せてLHRはパスしようかなと思っているとブレザーに入っている携帯が揺れ、私の目を覚ました。


そろそろ桃樹さんがバイト入りする時間だし、きっとメッセージをくれたんだろう。


私は教卓すぐ前の席だけれど、教卓裏で携帯を隠し桃樹さんからのメッセージを確認しようとすると別の人から届いていた。


『今日、ひま?』


こんな突然のお誘いをしてくるのは私の好きな人しかいない。


そう思ってメッセージチャットの名前をしっかり見てみるとやっぱりケイさんで私は久しぶりに気持ちが高ぶってしまう。


それがまだ桃樹さんを完全に好きになりきれていない現実を突きつけられているようで温まった気球が萎んで急降下する気分。


しかも、今日は桃樹さんと会う予定も、週4の家庭教師の授業も、新しく決まったカフェバイトのシフトも何もない。


そして七星ちゃんは毎日のようにある塾の日、智さんは入学式を終えて授業が始まっている頃。


今日はひとりの日。


だけど…。


私はそのメッセージチャットを開かないまま、桃樹さんに応援メッセージを送って始業式が終わった後は暇を潰しにいつものサブカル街へ。


流行りの炭酸ドリンク。


流行りのクリームパン。


流行りのプリ機。


どこの街にもあって、おこづかいやバイト代を貰えばすぐに買えちゃう手軽な価値。


最先端で可愛いらしいけど、言うて前からあったしすぐ廃れる。


もって3年くらいかな。


そう思いながら流行りに乗ろうともしない雑貨屋に入り、ガラクタ箱みたいな商品棚から今日も掘り出し物がないか探す。


すると小学生の時に潰れてしまった駄菓子屋にあったプラスチックの大きな入れ物にたくさんの棒付きキャンディーが入っている商品を見つけた。


しかも、都市伝説を聞いたことがあるぺろんと舌を出している2つ結びの女の子もちゃんと描いてあって大人の気持ちになった。


優愛「…なっつ。」


私は思わず声を漏らしながら大きなプラケースに入った50枚入の棒付きキャンディーを手に取り、値段を見ると870円とまさかの破格に買うしかないと脳に命じられる。


そんな懐かしいキャンディーボックスを抱いたまま、教室2つ分しかないはずの雑貨屋に3時間近く居座り、最終的に何個あっても困らない顔パックを大人買いと思われる10パックに漫画5冊、そしてキャンディーボックスを買って家に帰った。


優愛「ただいまー。」


母「おかえり、ご飯すぐ出来るけどどうする?」


と、お母さんは始業式だったのに18時に帰ってきた私に駆け寄ってきて寂しかった1人の時間を埋めるように話しかけてきた。


優愛「ご飯なに?」


母「トンカツ。」


…太る。


そう思ってしまったけどこの間、天ぷらを揚げるのを手伝った時にパチパチ跳ねてもなにも気にしてないような素振りでやけどをしていたお母さんを思い出し、私はささっと手を洗って食卓についた。


優愛「これあげる。」


私は今日自分用に買った顔パックを1つをお母さんにあげると、お母さんは首を傾げながら席に座りパックを物珍しそうに見つめた。


母「ドラックストアで見たことないかも。」


優愛「雑貨屋でたまたま見つけたの。美白効果あるから全身につけて。」


いつも安くて大容量のクリームを使っているお母さんだけど、やっぱり女の子だからこういうのに気分が上がって顔がほころんでる。


親孝行って大事だなぁと初めて思っているといつもはご飯を食べ終わった時間に帰ってくるお父さんが鍵を開ける音がした。


母「温めなきゃ。」


そう言ってお母さんはご飯途中なのにも関わらず、お父さんのご飯を温め直すので私は珍しく食器の準備やビールを注ぐグラスを冷蔵庫から取り出しシャワーを浴びて石鹸の匂いがするお父さんも迎えてみんなでご飯を食べる。


意外と良い子でいるのも悪くないかも。


そう思ったけど、ある一言でその気持ちが一瞬で消え去る。


「将来は看護師がいいかも。」


本当に突然、話すことが無くなった2人は私の人生を自分勝手に決め始めた。


「一家に1人は医療関係がいた方がいい。」


「食いっぱぐれがない。」


「無名大学行くよりはいい。」


「お金をかけるなら免許もらえた方がいい。」


「どこにでも働く場所はある。」


これってネズミ講のセミナー?


今日の始業式にドラック絶対ダメのビデオと一緒に見たネズミ講の話と同じじゃない?


仕事の良いところはいっぱい口に出すくせに私の良いところは言ってくれないの、好きじゃない。


というより、そんなの親じゃない。


嫌い。


私はさっきまでサクサクホクホクのジュワジュワだったトンカツの味を消すようにビタビタにソースをつけ、言葉を潰すように辛い固形物を喉に通す。


けど、2人はそんな私を見ないでボヤボヤな未来の私の見て楽しそうに話してる。


…もういいよ。


もう、こんな家出て行くから。



環流 虹向/愛、焦がれ

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