慾心
表現
いつもの場所へ戻るため、私はケイさんと電車に乗って友達の元へ向かう。
その間、ケイさんは自分のカバンと私のカバンで繋いだ手を隠し、食後の昼寝をしながら私の肩にもたれかかってくる。
寝れない私はもう1回終点まで行ってもいいかなと思ったけど、日が暮れてきてしまったのでさすがに待ち合わせの駅で降りるためにケイさんと繋いでいた手を軽く引っ張り降りることを伝える。
すると、ケイさんはゆっくりと頭を起こし座り直した。
これでまたしばらく会えないのか、それとももう会うのこともないのかなと考えているとケイさんは片手で携帯を取り出しメモ帳に書いた文字を私に見せてきた。
『またね』
私が好きじゃない言葉を伝えてきたケイさんの手を私は少し強く握り、『またね』と答える。
けど、その『またね』はいつもみんなと最後に交わす言葉で、その言葉を聞いた次の日からは音信不通や別のグループと仲良くなっていていつも置いてけぼりにされてしまう。
だから自分ではあまり使いたくないけど、みんなが当たり前のように使うから同じように言うしかない。
優愛「…またね。」
私は1粒のアメが漏れる程度の声でケイさんにお別れを伝え、そのまま開いた扉からホームに出て振り返り車内にいるケイさんを見送ろうとすると何故かケイさんも電車を降りていた。
優愛「え…、なん…」
ケイ「またね。」
と、ケイさんは私の頬に手を添えて親指で軽く撫でると、電車の発車メロディーが鳴ると同時に足早に車内に戻ったケイさんは手を振らずとも私と目を合わせたまま去っていった。
その行動が私のことを『好き』と言ってくれている気がしたけれど、気分屋のケイさんだからきっと気まぐれでしたんだろう。
そう考えるとやっぱりいつまでも片想いなのかと気づかされて泣きそうになってしまっていると、七星ちゃんからまた電話がかかってきた。
優愛「…いま、電車降りた。」
七星『よかったぁ。また寝過ごしてたら一緒に中華街行こうとしてた。』
と、七星ちゃんは笑いながら今日の私を肯定してくれる。
優愛「ごめん。今改札行くから。」
七星『うんっ。一緒にメガトンポップコーン食べよー。』
私はなんの疑惑も持たない七星ちゃんがやっぱり好きで最近智さんとのデートを優先してほしいと思って避けていたことを心の中で謝り、急いで3人の元に行った。
優愛「遅刻し過ぎてごめんなさい。」
七星「いいよいいよー。無事に会えたからOK!」
智「ジュース奢り。」
野中「長旅お疲れ様。」
みんなは私の周りで漂っているはずのソースの香りに気づかずにあと20分で始まる映画館へ、少し早歩きで向かいチケットを買う。
遅れた私がお詫びに全部出すと言ったけれど、みんなは私をチケットの自動販売から遠ざけてジュースを買わせた。
野中「ご飯なんか食べた?」
と、荷物係として私と一緒にジュースとポップコーンを待っている野中先輩が鼻を少しひくつかせて聞いてきた。
優愛「…いや?」
野中「そう?じゃあ美味しいとこ歩いてきたんだね。」
美味しいとこってどんなとこだよと思いつつ、意外と鼻のいい野中先輩にちょっと惹かれる。
優愛「今日は雨降りそうですね。」
野中「…天気予報見たの?」
優愛「見てないです。」
野中「晴れてたけど…。」
優愛「センサーですっ。」
私は自分の鼻を指して仲間か聞いてみると、野中先輩はびっくりした顔を一瞬して曇っていた私の心に晴れ間を見せるような笑顔をしてくれた。
野中「僕も気づいてた。」
と、野中先輩も自分の鼻を指し、仲間ということを教えてくれる。
私は初めて天気の香りを共有出来る人を見つけて、さっきまであった気持ちをすっぽりと捨てて映画を楽しみ、帰りの電車に向かうため外に出るとやっぱり雨が降ってきていた。
野中「やっぱり降ってきたね。」
智「今日はずっと晴れだったはずだけど…。」
と、智さんは今見ても意味ない天気予報を確認して、みんなして傘が無い中どう駅へ行こうか悩む。
七星「まだ電車あるし、優愛ちゃんお腹空いてると思うからどっかでご飯食べて止むの待とうよ。」
七星ちゃんはいつも私が考え付かないことを思いつくからほんと好き。
今日もまた七星ちゃんの好きが強まったから、もしかしたら智さんを超えちゃうかもと私はくだらないことを考えながら今日の予定に組み込まれていたみんなとのご飯を楽しんだ。
環流 虹向/愛、焦がれ
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