保持
大学の文化祭は1人で行くもんじゃない。
そう教訓を得た私は少しでも大人っぽくなるために見た目を良くしようと、予約した美容院でパーマを初めて挑戦した。
けれど、写真を見せて伝えたものよりもカールがきつくてこれじゃあ生徒指導の先生に何か言われてしまいそう。
そのことを担当した美容師に何度も伝えたけれど、数日経てば落ち着くの一点張りでお金を払わされてしまった。
数日って高校生の休日は週に2日だけしかないの、知らないの?
私はしっかりともらったレシートにある担当美容師の名前と店舗名をSNSに晒し上げようかと思うくらい腹が立っていると、夏休みからだんだんと疎遠になっていた白波さんからメッセージが届いた。
『今シャンプー系買ったらおまけのコフレついてくるよ。』
という営業のお得ホイホイをしてきた。
そういえば白波さんって美容師だったと思い出し、私は営業メッセージを無視して今あったことを説明すると今すぐお店に来てくれたら直すと言ってくれた。
私は少し抵抗がありながらも、明日から始まる学校のために白波さんがいる美容室へ行った。
白波「あー…、かけすぎだね。どっかの財閥お嬢様って感じ。」
そう言って白波さんは私の毛先を触れながら少し不機嫌そうな顔をして私の携帯に写るヘアモデルの写真と見比べる。
白波「一応、これにすることも出来るけど優愛ちゃんの髪質だと負けそうだから一旦パーマ落とした方がいいかも。」
と、白波さんは仕事場でしか見せない真剣な顔をしながら私の髪をクシで梳かし始めた。
白波「今回は俺がお金出すから一旦落とそう。これでお金盗った美容室の名前教えて。」
私はとても苛立っている白波さんに質問される美容室のことを全て正直に答えて、パーマを落とす薬剤をつけてもらい元通りにしてもらうとなぜか綺麗なウェーブがかかっていた。
白波「写真と近いようにしたけど、これが限界。ごめんね。」
白波さんが謝る事じゃないのに申し訳なさそうにしながら毛先にオイルをなじませてくれる。
優愛「…最初からここにすれば良かった。」
私が本音をポツリと呟くと白波さんは毛先を整えていた手を止めて自分の膝に置いた。
白波「俺のせいでこの店を選択肢に入れなかったんでしょ?」
と、白波さんは気まずそうに聞いてきた。
白波「あの日からずっとメッセージ無視してたよね。俺のこと好きじゃないのに信用してくれてありがとう。」
そう言いながら白波さんは私の肩に置いていたタオルを取り、椅子を横に回転させた。
白波「もし、次も任せてくれるなら後輩の女の子に情報共有して任せるから、今度からぼったくり店に行くのは辞めなね。」
…遠い。
私の背後にある背もたれに手を置き、とても近い距離感にいるはずの白波さんがなんだか遠いところにいる気がする。
白波「お疲れ様でした。」
と、白波さんは席から立たない私を立たせるように声を掛けるけど、私はまだおしゃべりしていたい気分になってしまった。
白波「ん?どうした?」
優愛「…ありがと。」
白波「うん。どういたしましてーっ。」
私の暇つぶしにいつも付き合ってくれる白波さんは鏡ごしで笑顔を見せた。
私はそんないつでも優しい白波さんともう1回家デートをしたいなと思い、お誘いしようと口を開きかけると白波さんは他の店員さんに声を掛けられて用事が出来てしまった。
白波「ちょっと忙しいからお見送り出来ないや。」
優愛「いいよ。またね。」
私は自分が好きじゃない言葉を使って白波さんの気持ちを引き止めるよう、手を振り返して今日も帰る気分じゃなかった自分の家におとなしく帰った。
環流 虹向/愛、焦がれ
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