中和

夏休みが終わってすぐに文化祭の準備が始まったけれど、私は自分の学校よりも進学予定の文化祭の方が気になってしまう。


あの学校にはケイさんの友達がいるってことが分かったけれど、ケイさんと友達が留年しなければ私が入学する年には2人とも卒業していなくなってしまう。


だから、新入生として相手してもらうことも、大学生活を共にすることが出来ない。


そんな数年先の嫌な想像をしてみるけれど、もしかしたら今もう既に終わってしまっているかもしれないケイさんとの関係に少し怯えつつ、約束したいちごみるくの味を口にしながら押し付けられたシフト調節の仕事を1人でしていると教室の扉が静かに開いた。


私はこんな丁寧に扉を開けるクラスメイトがいたか、ふと気になり顔を上げると七星ちゃんの彼氏になった智さんが私と目を合わせるとこちらに来て目の前の席に座った。


智「1人?」


優愛「…はい。」


私は未だに何もない男の人と何を話せばいいのか分からず、言葉のラリーを続けられない。


それがまだ自分が人見知りなのを突きつけられているようで少し息苦しくなると、あまり喋らない智さんから口を開いてくれた。


智「ありがとう…。」


優愛「え?」


たくさんある言葉の中でなぜそれを選択したか分からないけれど、智さんは少し恥ずかしそうにして眉を寄せる。


智「あれ…。祭り…。」


優愛「…あぁ。…別に。」


私は智さんの純真無垢そうな仕草とお兄さんの聖さんがした脅迫行為が頭の中でぐちゃぐちゃに重なり、兄弟ってこんなにも似ないものなんだなと初めて知る。


智さんは私に何もしていないのになんだか気まずいなと思っていると、智さんは何か言いたげにモジモジとリュックを握り唇を噛む。


私は自分よりも人見知りな気がする智さんをジッと見ていると、智さんは私と目を合わせて口を開いた。


智「一緒に周りたい…。」


と、智さんはとても恥ずかしそうに眉を寄せて顔をしわくちゃにした。


本当にこの人って私が知ってる智さんなの?と思いつつも、私は気になった事を聞いていく。


優愛「どこを周りたいんですか?」


智「…文化祭。」


優愛「誰とです?」


智「……七星。」


優愛「それって私に言っても意味なくないですか?」


私はなにをしたいか分からない智さんにちょっと当たると、智さんは申し訳無さげに顔を俯かせて涙目を作る。


そんなあざとい智さんにちょっとだけ気持ちが揺さぶられていると、智さんは顔の前で手を合わせて私に拝んできた。


智「2人だと…、緊張してパンクしそうだから…。祭りの時みたいに4人で周ってほしい…。」


優愛「…同じメンバーはちょっと。」


さすがにもう一度お兄さんとペアになるのは嫌で、私も顔を俯かせてしまうと智さんが心配そうに顔を覗き込んできた。


智「なんかされた?大丈夫?」


優愛「いや…、なにも…」


智「あいつ見境ないから。なにされた?」


と、お兄さんと似てしつこい智さんは知られたくない事を容赦なく聞き出してこようとするので、私は笑顔で首を振る。


優愛「なにもされてないですよーっ。ちょっと肩組まれたくらい。」


智「…されてんじゃん。兄貴じゃなくて俺の友達でもいい?」


そう言って智さんはメッセージアプリのアカウント欄を眺めて私のデート相手を探す。


優愛「…ダブルデートするって言ってないけど。」


私は勝手に話を進め始めた智さんの気持ちを走らせないためにわざと引き止めると、智さんは分かりやすくしょぼくれた顔をした。


意外と感情を表に出す智さんが面白いと思った私はしょうがないフリをして、あまり乗り気じゃない文化祭でダブルデートをすることにした。



環流 虹向/愛、焦がれ

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