慾望
感楽
「二股ってどう思う?」
私は今置かれてる状況を遠回しに普通の考えを持っていそうな七星ちゃんに聞くと、七星ちゃんは梅干しみたいに顔にシワを寄せて考えてくれる。
七星「…ダメ、だとは思う。けど、複数の人を好きになっちゃうのは分かる。」
優愛「え…、そうなの?」
私は意外な回答をしてくれた七星ちゃんに驚いていると七星ちゃんは携帯を取りだし、知らない男性2人の自撮りを見せてきた。
七星「ネオフレのかいとくんとプリプリのつーちゃん。」
優愛「…ん?アイドル?」
七星「そう!2人ともオーディションの時から応援してるの!」
…なんだ。
そういうことね。
私は“二股”でも応援したい存在の“二股”の会話をしたいとは思ってかなかったので、アイドルグループを熱弁してくる七星ちゃんの話を暇つぶしに聞いてバイトを終えるといつものように白波さんが待っていた。
七星「あ、じゃあまたね。次のシフトの時、CDあげるね!」
と、七星ちゃんはしっかりアイドル布教をすると自転車に乗って颯爽と帰っていった。
優愛「いいって言ってるのに。」
白波「この時間はだいたい暇だから。家まで送るよ。」
白波さんはあの日から私のシフトに合わせて時間が合う時に家まで送ってくれる。
しかも、カラオケから家まで30分近くある道をわざと電車に乗らず歩いてしまうので、私も白波さんも若干脚が細くなったのをこの間一緒にベッドでだらけていた時に気づいた。
白波「来週の土曜日、店自体が休みになったからどっかに行かない?」
と、白波さんはまた私をデートに誘ってくれた。
優愛「ごめん。その日は予定ある。」
白波「男?」
優愛「そー。」
私が正直に答えると白波さんは盛大にため息をついてその場にしゃがみ込んでしまった。
白波「なんで社会人の俺が大学生の男に負けんのー…。」
と、ふてくされた顔を演出するように頬を膨らませる白波さんは私の手を取り、Uターンをして歩き始めた。
優愛「ちょっと…、どこ行くの?」
白波「俺の家。」
優愛「行くって言ってない。」
白波「今からデート。これは絶対です。」
そんなこと言ってやりたいだけじゃん。
そう思うけど、嫌って言うほど嫌じゃないし私のことを好きでそうしたいと思ってくれるならいいと思っちゃう。
なので私は白波さんのわがままをしょうがなく聞くフリをして家デートをしに行った。
白波「明日休みだから人多かったね。」
と、コンビニに寄った白波さんは自分のお酒と私のりんごジュースをすぐ冷やすように冷凍庫に入れ、カップラーメンを作るためにケトルでお湯を作り始めた。
優愛「人に見られるの嫌じゃないの?」
制服姿の私を普通に隣に置いてしまう白波さんのことを少しでも嫌と思う要素を増やすため、私はそう質問してみる。
白波「別に。というより、優愛ちゃんが高校生でもおばさんでも一緒にいたいからいるよ。」
優愛「…あっそ。」
私は嘘ばっかりつく白波さんと目を合わせずにいつもの座椅子に座り、ご飯が出来上がるのを待つ。
白波「寒かったら窓閉めるけどどうする?」
と、白波さんは私の好ポイント追加するためにまた気を使ってくる。
優愛「いい。夏の匂い好きだから開けといて。」
白波「…夏の匂い?」
白波さんは家の中を通り過ぎる夏の始まりの匂いに気づいていないらしく、首を傾げて私の隣に座った。
優愛「今は春と夏の匂いが混じってる感じ。ツツジと湿った土の匂いがするの。」
白波「へー。全然わからないな。」
優愛「みんなそんなもんだよ。」
私は一度も理解されたことのない感覚を白波さんに共有してみるけど、今回もダメだった。
白波「一番好きな匂いは何?」
優愛「季節の?」
白波「この世にある全部。」
そんなこと言ったらケイさんのベッドにいつもある毛玉だらけの毛布の匂いになっちゃうけど、冷凍庫にあるりんごジュースを破裂させたくない私は2番目に好きな匂いを言う。
優愛「白波のつけてるワックスの匂いが好き。」
髪型はよく変わる白波さんだけれど、唯一変わらないのはあの日一緒に飲んだファジーネーブルの香りがするところ。
きっと何個か使ってヘアセットをしているんだろうけど、いつもその香りがする白波さんの隣はお風呂上がりにするメンソールの香りよりも落ち着く。
白波「柑橘系好きなんだ。」
と、白波さんはケトルのお湯が湧いたと同時に私の首にキスをしてご飯の準備をしにいった。
いつもちょっと噛み合わない白波さんを恋人対象として好きになることはあるのかなと自問自答する私は来週のデートに備えて肌の血色を白波さんに整えてもらった。
環流 虹向/愛、焦がれ
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