顕示

バイトが終わった私は1時間前に帰ってしまった七星ちゃんを追うようにお店を出たけれど、お店の裏口にはしっかり白波さんが待っていた。


白波「お疲れ。」


優愛「…ありがと。」


私は白波さんの冷たい手からはちみつレモンを貰い、一口飲むと立ち仕事で疲れた体に糖分が巡るのを感じ思わず口角が上がる。


白波「はちみつレモン好き?」


優愛「うん。好き。」


…なんの話だろう。


あの約束をしてからすぐに“好きな人”を作ったから本当にいるのか聞いてくるのかな。


聞いてきたとしても、証拠はメッセージのやりとりくらいしかないし、そのメッセージも会う日程を決める程度でラブラブな要素は1つもない。


ケイさんのことをどう説明しようかなと私は1人悶々と考えていると、白波さんは制服姿の私の空いていた片手を握りいつものケイさんのように指を絡めてきた。


白波「明日祝日だけど、学校は休み?」


優愛「…休みだよ。」


白波「一緒に夜更かししない?」


と、白波さんは私とまた遊ぶ関係に戻りたいのかそう聞いてきた。


優愛「帰らないと親がうるさい。」


白波「前はメッセージ1通で黙ったのに?」


優愛「そうだけど…」


白波「友達の家に行くって伝えて。帰りはちゃんと送るから。」


バイク持ちの白波さんは家の鍵と一緒にしているバイクの鍵をポケットの中で鳴らしながら私と横断歩道を渡る。


優愛「…お酒はダメ。先輩も友達もみんなダメ。白波だけだったら行く。」


白波「うん。俺だけだから。」


少し寂しそうに呟いた白波さんに私は少し心動かされて帰りの電車を逃すことにした。


優愛「分かったよー…。唐揚げ買ってね。」


私はちゃんと夜ご飯をご馳走してもらう代わりに白波さんの家に行き、気休めの野菜ジュースと大好きなブリトーを食べていると唐揚げ棒を温めなおしてくれた白波さんが座椅子に座る私の隣に座った。


白波「はい。熱々でーす。」


優愛「寒い。エアコンつけて。」


白波「はいはい。」


私は春なのに思ったよりも寒い部屋で体を温めるように夜ご飯を食べていると、白波さんが私の肩にブランケットをかけてくれた。


その優しさは前になかった優しさで私は隣にいる白波さんを別人かと疑ってしまう。


白波「…好きな人とうまくいってる?」


と、突然の質問を投げかけてきた白波さんは自分の膝を抱えながら私に上目遣いをするためにその膝の上に頭を置く。


優愛「まあまあ…?かな。構ってはもらってる。」


白波「いいなー…。優愛ちゃんと普通に会えるの…。」


優愛「…今会ってるじゃん。」


白波「好きって思ってもらえるの、いいなー。」


白波さんは目をウルっとさせて私にあざとく甘えてくる。


優愛「好き。」


白波「嘘くさ。」


…めんどくさ。


けど、気持ちは分かるから私も構ってあげる。


優愛「ちょっとくらい思ってないと来ないよ。」


私は両手に持っていた夜ご飯をテーブルに置き、あの日にインプットした甘えん坊を白波さんの肩に置いてみる。


白波「…ちょっとか。」


優愛「だって私の好きは上限あるもん。」


そう言うと白波さんは私の肩を掴んで背もたれに押し倒すように体を押さえつけた。


白波「もう少し俺に割合増やせない?」


優愛「どうだろ。」


白波「チャンスちょうだい。デートしようよ。」


優愛「…お家デート?」


白波「それでもいいし、夏になるから花火大会とか。」


…いいなぁ。


同年代で恋愛してる人はなんの気を使うことなく、普通に外デートが出来る。


けど、私の好きな人は初めて会った日に本当の年齢を伝えたからしたいとも言ってくれないし、そんな気もなさそう。


だから白波さんが言ってくれたデートプランがすごく魅力的に聞こえる。


白波「その時はさすがに制服はきついけど、外で遊ぶくらいなら犯罪じゃないし。」


優愛「職質されて私がぽろっと言っちゃうかも。」


白波「…じゃあ、今日はキスしないでおこ。」


そう呟いた白波さんはゆっくりと私から離れたけれど、肩から落ちてきた手は私の人差し指を握って離さない。


白波「今はちゃんと優愛ちゃんのこと好きだから。結構真剣だから信じてほしいな。」


と、信頼を自分から壊したはずの白波さんは自信なさげにそう言った。


優愛「好きをいっぱいくれたら考えるかも。」


白波「好き。」


優愛「…ちょっと違う。」


白波「すーき。」


優愛「違うー…。」


私はわざと唇を尖らせて白波さんに伝染させられた寂しさをなくそうとする。


白波「好きっ。」


と、白波さんはやっぱり大人で私のアイコンタクトを理解してキスをしてくれた。


白波「これ以上は止まれなくなるからダメね。」


優愛「別いいけど。」


減るもんじゃないし。


というより元がなくなってるが正しい気がするけど。


そう思ってると白波さんはまた私にキスをした。


それは前に会っていた時にはされたことのない温かいキスでケイさんとはまた別の好きが生まれた。


白波「いいなら泊まって。好きな人に雑なことはしたくない。」


優愛「…いいよ。今日は特別。」


私は2通目のメッセージを家族のグループメッセージに送り、白波さんとまた夜を過ごすことにした。



環流 虹向/愛、焦がれ

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