慾求
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私にいいねを送ってくれるのは女友達でも男友達でも家族でもなく、顔の知らない匿名の人たち。
けど、その数は私の知り合いよりも多いし、現実には言われない褒め言葉をたくさんくれる。
だから現実の知り合いに褒めアカウントがバレたとしても使い続けるし、何度だって転生する。
今日も5回目の転生をし終えて新規フォロワーが一気に3桁突破したことにまた承認欲求を満たされていると相変わらずのDMが来た。
その内容は現実世界ではセクハラとして訴えられるものばかりだったけれど、みんな私の写真を見てちょっとでもいい気持ちになるならOKだし、私もその感想や反応に自分の足りてない愛を補給してもらっているようでWin-Winの関係性だから訴えたいとは思わない。
そんな常人の考えを持てなくなってきた私は友達がいなくなっても崇め奉ってくれるフォロワーを大切にしているので、今日も人生充実度は70%。
この数字はめんどくさい友達関係を続ける中ではなかなか生み出せない数字なので学校で友達がいなくて困った時間を潰すようにまたいいねボタンをたくさん押してもらっていると、部屋の扉がノックされた。
「
優愛「はーい。」
私はいつも通り気だるけなお母さんのアナウンスに返事をして放課後からずっと着ていた制服から部屋着に着替え、リビングに行くといつもはいないお父さんがいつも空いている席に座っていた。
優愛「お帰り。」
父「ああ。」
会話はいつも一方通行。
それが私たち家族のあり方。
だから楽しげなTVを少し大きめな音量で流して無言の食卓を彩るの。
そうやって他人に家族を型どられてもらっているのに長期休みにはちゃんと家族旅行を計画しちゃうお父さんはいつも10分も経たずにご飯を胃に詰め込んでソファーで牛になる。
そんなお父さんをお母さんは夫として、男として見たりするのだろうかとふと思うけれど、愛で繋がった夫婦ではなかったみたいだからそんなこと最初から思ってないのかも。
私の家族はただ役割だけを果たす役者ばかりが揃っていて、本当に血の繋がりがあるのかなと昔いた友達の家族を見て思ったけれどこれが私の家族なんだから仕方がない。
そうやって割り切って見て見ぬ振りをしてやっているのにそれをお母さんは不服に思ってるっぽい。
母「優愛、進路はどうするつもり?」
優愛「えー…?まだ1年の冬だよ?」
母「早め早めに決めておかないと行き詰まるよ。」
と、お母さんはため息をつきながらお味噌汁を飲んで私に嫌なアイコンタクトを送ってくる。
そのアイコンタクトはお父さんの愚痴を言う時にする目だったので、私はお母さんよりも盛大にわざとらしくため息をつく。
優愛「じゃあ私、お嫁さんになりたーい。」
母「馬鹿みたいなこと言わないで。」
そう言って私の頭を軽く小突いたお母さんは不機嫌そうにまたご飯を食べ進める。
私は相変わらず素直に受け取りすぎなお母さんに呆れていると、お父さんがダイニングテーブルに戻ってきた。
父「やりたいことがないならとりあえず大学に行けばいい。4年は時間稼ぎできるぞ。」
母「まあ、妥当ね。」
そう言って久しぶりに意見があった2人は今の私の偏差値で届きそうな名前も知らない大学を調べ始めた。
優愛「…読モになりたい。」
父「またくだらないこと言って…、そういうのつまらないって友達に言われないか?」
そんな友達、私にはひとりもいませーん。
そう言いたいけど夜遅くまで出歩ける理由がなくなるのは嫌なので肩をすくめて適当に流す。
父「地道に真面目にコツコツと。それが一番堅実で真っ当な生き方なんだから周りと同じように大卒までの学歴を貰って就職すればいい。」
それが私には出来なさそうって思っちゃうけど、両親どちらも大卒なのでそれが普通で当たり前のことだと思っているんだろう。
あーあ…、一生学生で遊び呆けてたいけど確実に年は食っちゃうし、あっという間にババァになっていくんだろうな…。
そういえば幼稚園の頃に高校生を見かけたらだいぶ大人だなって思ったけどそうでもないなと、ふと思い出しているとお父さんが使っていたグラスをゴンッと強めにテーブルに置いた。
父「ぼけっとしてると犯罪に巻き込まれるぞ。最近家に帰ってくるのが遅いらしいし何やってるんだ?」
と、お父さんは急に怒り出し、昔に浸っていた私を静かに睨んできた。
優愛「この間まで友達とテスト勉強してたし、昨日はお疲れ会でカラオケ行ってた。」
父「あまりお母さんに心配かけるな。温かいご飯作って優愛の事待ってるんだぞ。」
そういう自分はどうなの?
そう言いたかったけど、これ以上自分の時間がこの2人に消費されるのが嫌だった私はここ数年で上手くなった相槌でその場を切り抜け自分の部屋に戻り、またSNS上の友達と交流した。
環流 虹向/愛、焦がれ
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