第3章 セレブの暮らし

第14話

「いただきます」


朝は、御津川氏と向かいあって朝食を食べる。

案の定、彼は朝食を食べるのが面倒くさいとコーヒーだけで済ませる人だった。

でも、私が作るようになってからここ二日、一緒に食べている。


「今日は帰ってから行くところがあるから、夕食の準備はしなくていい」


「わかりました」


一昨日に引き続き、昨日も夕食は作った。

たいしたものじゃないのに、大喜びで食べてくれる御津川氏は、こう……なんだか凄く、嬉しい。


「特に用事もないし、帰りは早いと思う。

李亜は?」


「特に外出予定もないですね」


「わかった」


朝食の時間は互いの、今日のスケジュール確認の時間だ。

こうやって教えてくれるから、非常に助かる。


「じゃ、いってくるな、李亜」


今日も御津川氏は私にキスし、仕事へと出ていった。


「じゃあ片付けして、少し頑張りますかねー」


御津川氏と暮らしはじめてまだ三日目。

生活はまだ、手探り状態だ。


片付けを終わらせ、パソコンの前に座る。

片付けといっても食洗機任せで、ほぼすることはない。

ページを渡り歩き、ポチポチと求人情報を探る。

昨日はできなかったので、その分いいのがないかと期待しながら。


昨日は、ハウスキーパーさんがやってきたのだ。

いや、私の母と同じ年くらいの、橋本さんはとても感じがよい女性だったのだけど。

彼女に家事を任せっきりで私は好き勝手……という状況に耐えられず、外に逃げだした。

だって、つい口走ってしまったのだ。


『なにか、お手伝いすることはありませんか』


って。

あのときの彼女の、顔はいまだに忘れられない。

優しい笑みをたたえたまま、固まっていた。

その瞬間、しまった、と悟って、速攻で外に出た。


「明日は橋本さんが来るんだよね……」


口から、はぁーっとため息が落ちていく。

彼女が、苦手というわけではない。

仕事は完璧だし、昨日だって私のことは全く詮索しなかった。

私がハウスキーパーという存在に慣れない、ってだけで。

会社の掃除のおばちゃんくらいに思えばいいんだろうか。


「まあいいや。

明日も外、いこ」


なんて思っていたんだけど。


午前中は就職活動し、午後からは語学の勉強。

できた時間でスペイン語の勉強をはじめた。

英語、フランス語、ドイツ語、中国語はできるが、さらにスペイン語を選んだのには別に意味はない。

サグラダ・ファミリアを一度、この目で見てみたいなんて思ったくらいで。


「んー、もう三時かー」


二時間程度で切りをつけて語学勉強は終了。

軽くお茶して、リビングでドラマ鑑賞を開始する。

今日選んだのは、話題になっていたときは見逃し、正月特番で一挙放送があったので録画したものの、ハードディスクの不調で飛んだ監察医のドラマだ。

もう、あのハードディスク初期化事件で消えた未視聴の映画やドラマのほとんどが観られるとあって、嬉しすぎる。


――ピコン。


通知音が鳴り、携帯を手に取った。


「いまから帰る、か」


LINEには御津川氏からメッセージが届いていた。

彼はマメに、こうやって連絡を入れてくれる。


「帰ったら外出するって言ってたけど、どこ行くんだろ?」


ちょうどドラマも観ていた話が終わった。

外出するなら少しくらい、準備をした方がいいなと、背伸びをして立ち上がった。

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