桐一葉くんの超能力な事件簿

@4310002024

ニセモノの恋人 その1告白

「桐一葉くんわたしとつき合って欲しいの」


 風の吹き荒ぶ屋上で夏山千鶴は告白した。秋は傘を差しながら冷めた目でクラスメイトを見た。


「なんでわざわざ雨の日に屋上で告白するのさ」

「だって、手紙を書いたときは晴れてたんだもの」


 秋を呼び出した方法は極めて古典的、ラブレターだった。


「なら今日の放課後待ってますみたいに指定すればよかったでしょ。なんで一週間後放課後で待ってますなんだよ。長えよ」

「もう桐一葉くんは乙女心がわかってないな」

「男だからね」

「女の子には心の準備が必要なの」

(男女関係ねえだろ)

 秋は思った。

「まあいいや、とりあえず屋内に――」

「待って」

 千鶴は立ち去りかけた秋を素早く呼び止めた。

「なにさ」

「告白の答えを」

「ノーに決まってるだろ」

「なんでよっ」

 千鶴は怒鳴った。

 風雨がなければ相当うるさかったろう。そういう意味では外に出て正解だったかもしれない。

「当たり前だろ。ほとんど話したこともないのに」

「ひ、一目惚れだから…」

「ふーん」


 秋は胡散臭そうに千鶴を見た。


「ボクのどこがいいの?」

「えっ、髪型。なんか紅葉みたいな赤い前髪可愛いじゃん」

「中々見どころあるね」


 秋は心にもないことをいった。というのもこれまで変な髪型とばかり言われてきたからだ。そう簡単に信じる秋ではない。

 しかし、千鶴は調子に乗った。


「でしょでしょ」

「他には?」

「えっと、うーん、えーっと」

「めっちゃ迷ってるじゃん。べつに無理探さないでいいよ?」

「ありますよ、ありますから。緊張してるから考えがまとまらないだけですよ」

「その割にめっちゃ喋るよねきみ」

「桐一葉くんなら下の名前で呼んでもいいよ」

「そのうちね」

(こいつ下の名前なんだっけ?)


 秋は内心思った。


「あ、いいところ思いついた」

「思い出したではなく、思いついただけなんだね」

「イヤだな。言葉の綾だよ」

「そうかい。で、ボクのいいところって?」

「背が低いところ」

「喧嘩売ってる?」

「違う違う」


 千鶴は慌てて否定する。


「桐一葉くんってさ、飛び級的なあれじゃない?」

「違うけど言わんとすることはわかった。確かに他のクラスメイトより年下ではあるね」

「わたし小さい男の子好きなんだ」

 千鶴はニヤけた。

「失礼します」


 秋はざっと翻した。


「ち、違う。わたしショタコンとかじゃないの。ま、待って」

「きみの性癖なんてどうでもいいし待たねえよ。いい加減屋内に行きたい」

「わかったよ、そっちで話そ」


 秋と千鶴はペントハウスに戻った。

 気づけば千鶴のブラウスは雨で透けており、水玉の下着が浮かんでる。

 秋はそっと目を逸らした。しかし千鶴は一瞬の視線に気づき、両手で胸を覆いながらいった。


「今付き合えば可愛い女子高生とえちちなことができちゃうかもしれないぞぉ〜」

「自分を安売りするなよ」

「ならわたしと付き合えよっ」

 千鶴は理不尽なツッコミをした。

「本心を話したら考えるよ」

「なんのことかな?」

 千鶴は首を傾げた。

 ぶりっ子攻撃である。


「ボクは一応精神系能力者だからね。人の感情には機敏なんだ。きみは焦ってる。きみの明るさは必死さの裏返しだ。でもなにがそうさせてるのかは知らない。読心術の心得もあるけれど、きみのプライバシーもあるから、あえて読んでない。だから、もし話せるなら自分の言葉で説明して欲しい」


 千鶴から笑顔の仮面が外れた。仮面の下にあったのは沈鬱な表情だった。


「わたしストーカーに追いかけられてるんだ」

 千鶴は黙ってしまった。秋は次の言葉を待った。しかたなく秋は言葉のボールを投げた。

「なるほどね。だから警察と関係のあるボクに近づいたってわけ?」

 千鶴はうなずいた。

「ならどうしてこんな遠回りな真似を?」


 正直予想はついている。しかし、コミュニケーションを円滑に進めるために、あえて尋ねた。


「一度警察に相談して、でもまだ実害もないし」

「動いてもらえなかった、と?」

「うん」

「ありがちだね」

「警察が断ったなら桐一葉くんも断るかもしれないし。でも恋人にさえなれば、守ってくれるかなって」

「ストーカー被害のために好きでもない人と付き合うのは本末転倒な気もするけど。きみにとってはよりマシな選択ってところなのかな?」

「桐一葉くんならいいかなって」

「そうなの?」

「わたし小さい子が好みだから」

「あれはガチなんだね」

「ガチです」

 千鶴は力なく笑った。

「相手はこの学校の人?」

「違う。前の学校のクラスメイト」

「と言うと中学高だね」

 秋は確認した。

「うん。わたしね、学級委員だったの」

「意外だね」

「失礼だぞ」

 千鶴は微かに笑った。

「でも確かにそうだよ。真面目ちゃんってタイプではないもん。推薦で有利を取るために中3のときだけやってただけだから」

「まあそういう人も多そうだよね」

 秋は相づちを打った。

「わたしこの手の人まとめる系の仕事ってやったことなかったんだよね。仕切ってる子の側にいるタイプっていうか」

「それで?」

 秋は先を促した。

「だから、変に意気込んでしまったというか。クラスでひとりぽつんとしてる子にも積極的に話しかけたの」

「十分真面目だよ、きみ」

「そうかな」

「堅いタイプではないから気づかれなかったし、自分でも気づかなかったんだと思うよ」

「そっか」


 喜んでる様子はなかった。喜べるはずがなかった。今の状況はその性格が招いたことなのだから。


「でもようやく話が見えてきた」

 秋はぼんやりする千鶴を話の本流に戻した。

「たぶん桐一葉くんの想像してる通りだよ。その子さ、勘違いしちゃったんだよ。一度告白された。振ったんだけど、諦めてくれなくて」

「じゃあストーカー被害は中学から?」

「そうだね。今ほど激しくはなかったけど」

 千鶴は続けた。

「高校に入れば収まると思ってたんだ。でも全然収まらなくて、ていうか酷くなるいっぽうで…」

「ひとついい?」

「あ、うん」

「そのストーカーさんは学校どうしてるの? 今のご時世高校行かない人の方が少数派だと思うけど」

「通信制の高校なんだって。たまたま風邪で早退したときも待ち構えてたからさ、なんでいるのって聞いたら定時制だからって」

「なるほど。ずいぶんとキモいやつだね」

「ほんとに気持ち悪い」


 千鶴は露骨に嫌悪を示した。それはストレートな感情表現だった。今まで説明なんかよりよっぽど説得力がなる。


「ま、できる限りのことはするよ」

「ほんと?」

「でもあまり期待はしないでよ。たぶんいちばん穏便な方法は寮に移ることだよ。セキュリティも万全だし」

「それは無理、わたし家近いから」

「気持ちの問題? それとも学校の規則的な話?」

「規則の方」千鶴は続けた。「この学校全国から人集まってるから。家近いわたしは無理なの。もう満員だし」

「それは残念」


 秋はその言葉の調子以上に落胆していた。これ以上の方法はたぶんない。


「なんかいい案ある?」

「いまのところ様子見だね。とりあえず帰るときは遠くからつけておくよ」

「ありがとう」

 ふたりは教室に戻った。

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