僕の時計の記憶

平和島宏

時計はただ時を刻む。 それ以外に理由はない。

【僕視点】

僕の時計は今も机の上で時を刻んでいる。

でも明日、僕はこの時計とお別れのようだ。

思えば初めてのバイト代でこの時計を買ってからかれこれ20年は経った。

文字盤が曇ったり、いきなり動かなくなったり、機嫌が悪くなることなんてしょっちゅうだった。

まぁ、動かなくなったのはソーラーバッテリーなのに僕が充電しなかったからだけど。。。

不意に落としてガラスが欠けてしまったこともあった。

銀色のバンドも汗で汚れて、文字盤の裏面も細かい傷がいっぱいある。

でも、どんなにお金に困ってもこの時計だけは手元に残した。

左手にこの時計の重みがあるだけで、就活の時は何故か落ち着くことができたし、初めてのデートでもその時に僕ができる最大のオシャレアイテムだった。

「相棒」であり、「戦友」であり、「分身」のようにも思ってしまっているこの時計と別れるのは心が痛む。

この時計もそんな風に思ってくれていたら嬉しいな。。。


【時計視点】

私は今日も変わらず仕事をしている。

何故かと言われても時計である私に「時計」だからという理由以外ない。

ショッピングモールの時計屋でこの男に買われてから私は今日まで何も変わらず仕事をしている。

この男ときたら充電を忘れて私を止めたことは一度や二度ではない。

何故、数時間太陽のもとに私を置くことを忘れるのか理解できない。

まぁ、こんなことを言ってもこの男には何も聞こえないのだから仕方ない。

道具である私は使われなければ、ただゴミとして捨てられるか、バラバラになって別のもののパーツになるしかない。

文句を言いつつもこの男に買われたことで色々な場所に行けたことは良かったのかもしれない。

この男が私を身につける時、異様に汗ばんでいたり、震えていたりしたことがあった。

この男にとって、それは人生における特別なイベントだったのだろう。

今もそのイベントのはずなのだが、この男は私を身につけていない。

男の近くにはいるが、机の上に置かれてしばらく触られていない。

日付の部分は手動で調整しなければいけないのにこの男はそれをする様子もない。

ここ数日はずっと寝ているか、白い服を着た人間と話をしている。

隣ではピコピコ音を立てている機械もある。

この男はどうしたのだろうか?

私のように太陽に当たらないから充電が切れるのだろうか?

なら早く太陽に当たれば良いのにこの男はそれもしない。

このまま動かなくなるのを私は見ているだけらしい。

まぁ、それでも私は仕事を続けるだけなのだけど。。。





朝になって男の顔が見えなくなった。

白い服を着た人間たちが世話しなく動いている。

そして私は他の荷物と一緒に箱に入れられた。

はぁ、、、また電池が切れてしまうのかな?

だが、そうはならなかった。

気付いたら私は小さな子供に掴まれて振り回されている。

ガラスが割れるかもしれないから止めて欲しい。。。

しばらくすると女性が子供から私を取り上げて、机の上に置いた。

少し埃を被って、私自身が曇って見えるその机には笑ったままのあの男がいる。

今度はいつ私を身につけるのだろうか?

男は笑ったまま、ただ私の横にいる。

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僕の時計の記憶 平和島宏 @world-vita

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