第2話 同情を引く男

彼との出会いは、高校を卒業して数ヶ月後の出来事でした。彼とは友人を通じて出会い、一緒に遊ぶようになりました。

それは男と女の関係では無く、友達としての関係。


でも、わずかな時間で彼に惹かれてしまったのも事実です。


彼は一見すると、鋭い目つきと話し方のせいか不良っぽいイメージでしたが、性格は優しく気遣いが出来る人でした。

私は彼の、そんなギャップに惹かれてしまったのかも知れません。


それと、彼に惹かれてしまった理由がもうひとつ。彼はとても可哀想な人でした。


彼は、幼い頃から今までずっと義理の父親に虐待されて育ったそうです。


彼には6人の兄弟が居て、そのうちの下3人が義理の父親と血が繋がった子供で、上3人は血の繋がっていない子供達。

たから、上の3人は虐待を受けて育ったそうです。


虐待__


それは、私にとって衝撃的な内容でした。


彼は義理の父親に、浴槽の水の中に沈められたり、殴る蹴るなどの暴力を繰り返し行われていたそうです。この話を聞いた時、顔すら知らない彼の義父に猛烈な悪意を抱いた自分を今でもハッキリ覚えています。


いいえ、その状況を知らないふりしていた母親にさえ怒りの感情を覚えました。


『彼を守りたい』


虐待の事を聞いた瞬間、本気でそう思いました。

でも、どうしたら守れるのか?

その答えが出せずモヤモヤとした気分の中、私は彼に告白されました。


今思えば、彼は自分に同情してくれる人を無意識に探していただけなのかも知れません。

そして、彼を好きすぎて現実を見れなくなっていた私は見落としていた事が沢山ありました。


18歳という年齢になっても、自立する事をせずに【虐待されている】という武器を使い同情を引く彼。


会って間もない人間に簡単にすぐに重い話をしてしまう彼。

その異常さを見落としていました。


きっと__


それは全て、【同情心を誘う】という、彼の手段だったのかも知れません。

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