迷宮孤立

三八式物書機

第1話 迷宮

 東京、名古屋、大阪、札幌、博多

 この中心地近くで突如として、巨大な門が出現した。

 高さ10メートル超、広さ50メートル。

 出現した箇所の建物などは消滅、そこに居た人々の安否は絶望。

 そして、金属製だろうと思われる門は開かれた。

 中からは地球上に存在しないだろう怪物達。

 彼らは圧倒的な力で人を殺害、捕食した。

 大量に放出された怪物達によって、数千人が行方不明となった。

 警察だけでは不足で、政府は即座に自衛隊に防衛出動を命じ、怪物達の討伐が行われた。事態は三日を掛けて収束したが、損害は甚大。

 だが、これは日本だけの現象では無かった。世界中の大都市に門は出現し、大災害となっていた。

 自衛隊は門周辺に部隊を配備し、門から出て来る怪物を片っ端から討伐し続ける。

 春日井駐屯地に配備されている偵察隊所属の高橋聡一等陸尉も名古屋の門周辺に居た。彼の部隊は真っ先に投入され、多くの戦果を挙げ続けている。

 手にした20式自動小銃は初めての実戦からすでに多くの怪物を殺し続けている。

 高橋の部隊は僅かな休息の間に師団司令の訪問を受ける。

 師団司令の訪問は新たな命令を下す為であった。

 この事態を解決する為に政府は国内全ての門に対して、調査を決定した。

 その為にまずは安全なルートの確保の為の偵察が必要だとし、偵察部隊の門への進行が命じれたのだ。

 未知の領域への進行はあまりに危険な任務であり、師団司令が直接、部隊に赴いての命令伝達であった。

 死ねと言っているようなものだが、それでも命令ならば、行くしかないし、このまま、この危険な門を放置していては、日本が滅茶苦茶になってしまう。

 高橋達は装備を改めて整えて、門への進行を始めた。

 

 軽装甲車5輌、96式装輪装甲車5輌、隊員80名が投入された。

 高橋は軽装甲車の機関銃手として、後部座席に乗り込む。

 12.7ミリ重機関銃が据えられた銃座に立つ。

 他の車両には40ミリ自動てき弾銃などもある。

 隊員達は20式自動小銃、ミニミ軽機関銃、84ミリ無反動砲などが装備されている。ただし、5,56ミリ普通弾では大型怪物に対するストッピング効果が低いとされ、一部に64式自動小銃、または対物ライフル銃が配備された。

 門の突入時にも門から溢れ出る怪物の攻防が激しかった。

 航空自衛隊の支援を受け、門周辺に爆撃が行われた。更に特科による砲撃。これらで何とか門周辺の怪物を一掃した。その隙に偵察隊は門への侵入を果たした。

 門に突入するとそこは名古屋とは思えない大森林であった。

 明らかに異世界。

 彼らは前進を始める。

 獣道のような道をただ、進む。

 だが、不思議な事にあれだけ門の外に溢れ出ていた怪物の姿が無かった。

 時折、出現する怪物もまるで普通の獣のように怯えて逃げ出す始末。

 彼らはあまりにあっさりと大森林の奥地へと進んだ。

 そして、休憩場所として、湖の畔を選ぶ。

 ここは敵地。

 周辺警戒が厳とされ、野営地の設営が始まった。

 高橋も周囲を警戒するように配置された軽装甲車の上で警戒をしていた。

 曇天の空。謎の飛行生物が時折、遠目に確認される。

 鳥ではない。一言で言えば、竜。

 あれが襲ってきたとすれば、恐怖でしかない。

 そもそも、体のサイズに似合わぬ翼で何で、あれは飛んでいるのだ?

 謎でしかなかった。

 高橋はそんな疑問を感じたが、高卒の自分では答えに辿り着けないと諦め、ただ、襲われた時の対処だけを考えた。

 目の前にある機関銃は大抵の怪物を倒せる。だが、自由に撃てるわけじゃない。上から襲われたら、どうにもならない。その時は周りの隊員頼みが、背中に回した自動小銃を構えるしかない。

 何にしても不安しかなかった。

 湖の水の水質が確認された。水質に問題は無かったようだ。

 濾過をすれば、飲める。ただし、この世界の物は摂取せぬように厳命されている。

 木々などの植物に関しては見た目、あまり変わらぬように思われる。

 無論、遥か先に見える天まで伸びた巨大樹などは別にして。

 巨大樹に関してはラノベに精通するオタクがユグドラシルじゃないかと言っていたが、何の事だが解らない。

 その晩は何事も無く終わった。

 部隊は更に奥地へと向かう。予定では門から50キロまでの偵察任務である。そこまで到達すれば、折り返して、復路での安全確認。それで全てが終わる。

 

 はずだった。

 高橋が恐れていた事が始まった。

 突如として一行を襲ったのが竜・・・真っ赤な鱗を持つドラゴンであった。

 空からの火炎の一撃。火炎放射器かと思われるそれは一撃で96式装輪装甲車を火の車にしてしまった。当然ながら、搭乗員は脱出する暇さえ与えられなかった。

 高橋は懸命に機関銃を撃つ。

 だが、ドラゴンの鱗は装甲車並・・・否、戦車並だった。

 銃弾が全て、弾かれる。狙いを翼の付け根などに変える。だが、どれも弾かれる。

 装甲車から降りた仲間たちは手にした銃を撃つ。だが、ドラゴンの炎で焼かれ、ぶっとい手足、尻尾で薙ぎ払われる。

 次々と仲間が死んでいく中、高橋が乗った軽装甲車もドラゴンの尻尾で軽々と飛ばされる。高橋は車外に投げ出され、地面に転がり、意識が飛ぶ。

 

 どれだけの時間が経っただろうか。

 高橋は目覚めた。

 知らない内に雨が降っていた。

 慌てて、自動小銃を構えた。

 周囲は静まり返っていた。

 ドラゴンの姿は無い。

 高橋は冷静に周囲を確認してから、仲間との合流を最優先に動き出す。

 自分が乗っていた軽装甲車の残骸を見た。激しく変形して、一目でスクラップだと分かった。乗っていた仲間は皆、車内で死亡を確認した。彼らの予備弾倉と水、食料などを確保する。生き残るためには必要な事だった。

 食料を現地で調達する術もあるが、この世界の生物を口にするのは危険であった。なるべくなら、配給されたレーションなどを食べる方が良い。

 高橋は周辺を隈なく探索する。

 部隊に配備された車両は全て、破壊されていた。

 ドラゴンの力は装甲車を軽々と破壊するに至る事が判明した。

 死体の数は全て、確認する事は不可能だったが、多分、自分を残して、全員が死亡したと考えるに至った。

 こうなれば、一人で退却をするしかない。徒歩で40キロ以上を走破する必要がある。幸いにも装輪車が通れる程度に道はあった。怪物の数も左程では無い。無論、ドラゴンの脅威はある。すぐにここから離脱するべきだった。

 無線は車両と共に破壊されていた。84ミリ無反動砲と砲弾も残っていた。ドラゴンとの戦闘においては急であった為に使えなかったのかもしれない。重たい装備ではあるば、ドラゴンの脅威を考えるならば、持っている必要はあった。

 高橋は総重量100キロ以上を抱えて、退却を始めた。

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