マッチの売り少女

@8_8

第1話

誰しもが、誰かに依存している。

家族か友人か、はたまた恋人か。

他人からの温もりこそが自分を生かしている一番の燃料だと、私は思う。

時には燃え尽きたり、爆発したり。永遠ではないけれど、人生においてこれなしに生きられる人なんかいない。

だから私は今日も探す。自分自身の燃料となってくれる人を。

相手の心に火をつけてかわりにあっためてもらう。どんなに穢れた炎でも、私には必要だから。

「ねえ、おじさん、どう?」

さて、今夜はどんな温もりで包まれるのかな。


プルルルル、プルルルル・・・

「・・・はい」

「すでに退店時間を過ぎております、お帰りの準備をお願い致します。」

「・・・すみません。」

あれから確か、2時間くらいで事を済ませた私は、あらかじめ予約していたネカフェで1泊することにした。どうしてもおじさんたちは夜にならないと来ないからしかたない。終電を逃すことだって想定済みだ。

少し違和感のある喉を抑えながら急いで支度する。昨晩は少し声を出しすぎたかもしれない。だけどあの人は私が喘げば喘ぐほど喜んでくれたから仕方ない。おかげで少し多めの金額を払ってくれた。

最近は人一人を捕まえるのも大変だ。警察も目を光らせているせいでどんどんやりづらくなっている。それでもここでは大金が得られるし、リスクに見合う価値がある。最近ではリピートの人もできたし、年内に100万近くは得られるだろう。

そんなことを考えつつ、化粧を軽く済ませた状態からマスクで顔を隠して清算を済ませる。この店からもずいぶんと女性は減った。以前なら朝方の受付には必ず6、7人いたはずだが、最近は1,2人程度しかみない。彼女らはどこでお金を稼いでいるのだろうか。多くはホストやメンコンに貢いでいるだろうから、どこかで体を売り続けているはずだ。

かくいう私は、ホストにいったことがない。もちろんメンコンにもだ。

だってあそこに温もりはない。外面だけの言葉と外面の良い人間だけ。

あそこでは私はきっと、満たされない。

死んだ目をして駅から出てくる人の流れに逆らいながら電車に乗りこむ。少し熱気のこもった車内でスマホをいじりながら今後のことを考えることにした。金はある。でも何か欲しいわけでもないし、使い道がない。

将来?そんなの興味ない。金は得てきた温もりの数を示す証拠品に過ぎない。女の賞味期限は短いから、皆が求めてくれるのは今だけだ。数年も経てば、道端に落ちたゴミのように無視され、時には無遠慮に踏みつけてくるだろう。

私もその頃には大学を出なければならない。自由な時間は終わりで、社会に縛られながら味気ない人生が始まる。きっと私は1人では満足できないだろうから、職場恋愛なんて夢のまた夢だ。

そんなことを考えていると、某家電量販店のメロディーが流れていることに気づく。慌てて電車を降り、階段を降りて4番線に向かう。実家まではあと少し。

お母さんたちにはどう説明しようか。

「今日は飲み会でいいかな」

そんな独り言を呟きながら、私はいつもの帰路についた。

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