隻翼のドラグーン

葵大和

第一章 悲劇の公爵家〈レイデュラント〉

第1話「そして英雄が生まれた」

 青い空から竜がちてくる。


「"お兄様"っ!!」


 竜の背には男が一人乗っていた。

 かろうじてくらをつかんでいるが、いまにもその体は宙に投げ出されそうだ。


「ああ……!!」


 これでもうレイデュラント家に優勝はない。

 先祖が積んできた栄光は今日ここでついえる。


 ――しかしそんなことはどうでもいい。


「誰かっ!」


 兄を助けてくれ。

 地上にいた一人の少女が叫んだ。


「大丈夫、おれが行く」


 その次の瞬間。


 彼女の頭上を巨大な影が猛スピードで貫いた。


「え?」


 周りにいた観衆が空を差して叫ぶ。


 『竜だ!!』

 『白竜だっ!!』


 もはや存在しないと言われた白い体表の竜。

 だが少女を驚かせたのはそこではない。


「"お兄ちゃん"……?」


 今、たしかに耳を打った声は、けっして竜に乗ることができないと言われたのものではないか。


「ミアハだ」


 いつの間にか、二番目の兄が隣に来ていた。


「あれはミアハだ。オレたちの――家族だよ」


 ちていく竜のもとへ一直線にけていく白竜はすでに遠い。

 背に乗っている人物は竜の遠慮のない飛行軌道をものともせず、まるで竜と一体になっているかのように空の風に髪をなびかせている。


 よく見るとその竜の片翼はまるで光で出来ているかのようにきらきらと輝いていた。


「ミアハ・レイデュラント。……今日ここに、史上最高のドラグーンが誕生した」


 二番目の兄がうれしげに、それでいてかなしげにつぶやいた言葉が、少女の耳にずっと残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る