NO.1

第1話

紫雲優芽(しうんゆめ)は稽古場の遺影を眺めていた。


「優芽先生さようなら!」


「さようなら。ありがとうございました。」


稽古を終えた生徒が次々と優芽に声をかける。


「さようなら。気をつけてね。また来週。」


優芽も振り返って返事をする。

優芽が教えている生け花教室は評判が良くて、沢山の生徒を抱えている。


家元としても紫雲派の展覧会や免状試験など忙しく働いている。


「お父様。まだまだですね。早くお父様の様な作品を活けられる様に頑張りますね。」


優芽はまた遺影に話しかける。

紫雲紫耀(しうんしょう)は、優芽が愛してるただ一人の人のはずだった。


育ての父である紫耀が優芽の愛する人だった。今も愛してる。一番愛してる。


でも、紫耀はもういない。


「会いたいです。お父様に。もっと側にいたかった。お父様だけなのに。」


月日が流れている。優芽の中で何かが変わろうとしている。

優芽は窓の外を見つめた。


「下弦の月ですね。お父様。」


優芽は紫耀の言葉を思い出していた。


「優芽。自分に素直になりたい時は下弦の月から始めなさい。新しい自分や今まで見えていなかった心に出会えるよ。月が優芽を素直にしてくれるから。」


優芽は燈馬を思い出していた。


「また他の人に思いを寄せている人を好きになるなんて。お父様のせいですよ。」


月を見つめている優芽の瞳が潤んでいた。

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