NO.1
第1話
紫雲優芽(しうんゆめ)は稽古場の遺影を眺めていた。
「優芽先生さようなら!」
「さようなら。ありがとうございました。」
稽古を終えた生徒が次々と優芽に声をかける。
「さようなら。気をつけてね。また来週。」
優芽も振り返って返事をする。
優芽が教えている生け花教室は評判が良くて、沢山の生徒を抱えている。
家元としても紫雲派の展覧会や免状試験など忙しく働いている。
「お父様。まだまだですね。早くお父様の様な作品を活けられる様に頑張りますね。」
優芽はまた遺影に話しかける。
紫雲紫耀(しうんしょう)は、優芽が愛してるただ一人の人のはずだった。
育ての父である紫耀が優芽の愛する人だった。今も愛してる。一番愛してる。
でも、紫耀はもういない。
「会いたいです。お父様に。もっと側にいたかった。お父様だけなのに。」
月日が流れている。優芽の中で何かが変わろうとしている。
優芽は窓の外を見つめた。
「下弦の月ですね。お父様。」
優芽は紫耀の言葉を思い出していた。
「優芽。自分に素直になりたい時は下弦の月から始めなさい。新しい自分や今まで見えていなかった心に出会えるよ。月が優芽を素直にしてくれるから。」
優芽は燈馬を思い出していた。
「また他の人に思いを寄せている人を好きになるなんて。お父様のせいですよ。」
月を見つめている優芽の瞳が潤んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます