ツンデレ少女の心が読める

上水

第1話

 俺の名前は人見 透、物心ついたときから人が喋っている時に頭上に本心が表示される超能力を持っていた。テレパシーとでもいうべきだろうか。


 そんな俺は、能力のせいで苦労した経験がある。俺が友達だと思っていた相手が、実は俺のことが嫌いということが分かったり、他人に対する暴言も表示されたりするため、人間関係というものに疲れ始めていた。なので、人とは最低限の距離感に保つようにしている。


 だが、そんな俺にはどうやって距離を保てば良いのか分からない相手がいる。


「おはよう。相変わらずしけたかっこいいしてるだなぁ……わね」


 隣の席にいる美少女、藤崎芽衣だ。いつも無愛想な対応で有名で、誰にも話しかけない。ただしその美貌のおかげか、彼女はクラスの人気者だ。影ではファンクラブまでできているらしい。


「なんだよ、挨拶代わりに罵倒するな」


 俺は彼女の本心を知っている。なぜか、彼女は俺に好意を抱いているようだ。理由は全く分からないが、耳に入る言葉と、目に見える本心のギャップにいつも振り回される


ふふん、まあいいじゃないまた思ってもないこと言っちゃった……この私が話しかけてあげているのよでも、こうやって話していられるの嬉しい嬉しいしょ」


「はいはい、嬉しいです」


 「なによ、つれないわ嬉しいって言ってくれた……。


「いや、もう十分喜んでる。だからそろそろ席に戻ってくれ……」


は?なんでよえ、私嫌われてるの……?


「いや……その……視線が痛いというかなんというか……」


 芽衣が誰に対しても無愛想なこともあって、彼女と話している俺にはクラスメイトの嫉妬が集まっている。頭の上には「なんでアイツと?」という嫉妬の言葉がちらほらと見える。


「ああ、そういうことね。まあ、こんな美少女があんたみたいな透くんと話せるだけで陰キャと話してたら幸せなんだけど……気に食わないのも当然ね透くんが困ってるのは嫌だな


 彼女は気にしていないようだが、俺にはその「陰口」がしっかり見えている。正直、他人の悪意にさらされるのはかなり辛い。


「お願いだから、もうやめてくれ……」


ふふ、まあ、そんなに言われたくないなら透くんを困らせてしまうなら仕方ないわね。また今度にしておくわ」


 芽衣はそう言うと自分の席に戻っていった。

 俺はほっと胸をなでおろして授業の準備を始めるのだった。




 放課後のチャイムが鳴り、教室は開放感に包まれた。周囲がざわめき、皆の頭上に文字が表示される。どうでもいい情報で頭がいっぱいになる感覚が俺は苦手だった。なので俺は、放課後はいつも決まってある場所に行くようにしている。


 階段を上り、ドアを開ける。心地よく風が吹き抜け、俺はフェンスに腕を乗せて景色を見下ろした。ここは、誰も来ないのでリラックスできる。


 しばらく景色を眺めていた。その時、背後からドアが開く音がした。振り向くと、そこに立っていたのは芽衣だった。


奇遇ねいた!あんたいつもここにいるのまさかずっと屋上にいたなんて?」


 偶然鉢合わせたふりをしているのだろうが、俺にその手は通用しない。


「ああ、いつもここだよ。落ち着くからな。お前はなんでここに来たんだよ」


 俺がそう言うと、芽衣はしまったという顔になった。一瞬、言い訳が思いつかなかったのだろう。


「あんたと、同じ理由よ危ない、落ち着きそうだったから来ただけもう少しでバレるところだった


 芽衣はそれで回避したと思っているが、俺は最初から分かっているので意味はない。だが、追求すると面倒くさいからそれは言わないでおく。


「そうか、それなら気が済むまでここにいるといい」


「そうさせてもらうわ」


 芽衣は俺の隣に来て俺と同じようにフェンスに腕を乗せた。


「ねえ、あんたさ透くんって、私のことどう思ってるの?」 あ、やば……


 芽衣がそう言った瞬間、彼女はまたもやしまったという顔になった。


「どうって、どういう意味だよ」


 俺は彼女の本心が見えているので「好き」ということを知っている。だが、それをここで言うほど俺も無粋じゃない。


「いえ、なんでもないわ。忘れてちょうだい」


 芽衣がそう言うと俺は納得して頷いた。


「なあ、なんでお前って俺に話しかけてくれるんだ?」


 ふいに、気になったことが出てきたので聞いてみることにした。本当はなんで好きなのか気になったが、それを言えるはずもなく濁して聞く。


「そうね……あんたはよく分からないけど良い奴だし、優しいし、一緒にいると落ち着くから顔もスタイルも良くて、私にも物怖じしないからかしらね」


「ふーん、そうなのか」


 褒められるのに慣れてない俺は少し照れて目を背けた。


「何よ、そっちから聞いてきたくせに」


「いや……その、ありがとうな」


 俺がそう言うと芽衣は驚いた顔をした。


ふふ、どういたしまして透くんが照れてる。珍しいな、可愛い


「う、うるさい」


 俺は恥ずかしくなって顔を背けた。


そんなに恥ずかしがることないのに照れてる透くん、見てて楽しい。


「いや、まさかお前に褒められるとは思わなかったからな。」


 そう言いながらも、内心は嬉しかった。


どうして?私の目は確かよ。もう少し自信を持ってもいいのにあんた、意外と良いところがあるのよ。」


「そういうの、あんまり言われないからな。」


 心のどこかで、自分が評価されることに慣れていない自分がいる。


「それに、私も隠れた魅力を見つけたつもりよ。」


 芽衣は目を輝かせ、少し真剣な表情を見せた。


「俺の魅力か……まさか、そんなものがあるとは思わないけど。」


「あるわよ」


 芽衣の言葉には、なんだか特別な響きがあった。


 その瞬間、俺は彼女がどれだけ自分を気にかけてくれているのかを実感した。心の中で、芽衣に対する想いが少しずつ大きくなっていく。


「でも、芽衣はみんなから人気だから、俺みたいな奴には話しかけない方がいいんじゃないか?」


 芽衣は少し眉をひそめ、真剣な目で俺を見つめ返した。


「そんなことない。私があんたと話すのは、私の自由だから」 それに、透くんと話していると楽しいし


 その言葉に、俺の心がドキッとした。


「お前、意外と強気だな。」


「当たり前でしょ。|あんたと話すのが嫌なわけじゃない」 嫌なわけないに決まってる


 芽衣の言葉が、俺の心に響く。


「俺も……お前と話すのは嫌じゃないよ。」


それならいい。これからも、もっと話したい


 芽衣が笑顔で言った瞬間、心の中に暖かいものが広がった。


 しばらくの間、二人の間に静かな時間が流れた。夕日が沈む中、芽衣の隣にいることが心地よかった。


 その時、芽衣が急に真剣な顔をして、口を開いた。


「透くん、私、あなたに言いたいことがあるの」


「何だよ、急に真剣になって」


 俺は少し緊張した。


「実は、私……透くんのことが好きなの透くんのことが好きなの


「え……」


 突然の告白に俺は戸惑いを隠せなかった。心臓が激しく脈打つ。芽衣が俺に対して好意を抱いていることは知っていたものの、言葉で直接伝えられると動揺してしまう。


「透くんはどう? 私のことをどう思ってるの?」


 芽衣の表情は真剣だった。それが冗談ではないことを物語っている。


「俺も、芽衣のことが好きだ。」


 思わず口から出た言葉は、俺の本心そのものだった。芽衣の目が大きく見開かれ、驚きの表情を浮かべる。


「本当に……?」


「本当だ。だから、これからも一緒にいてほしい。」


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