※姫と謙信と政宗

1

高校生活も残り一年を切った。

そんな春の大型連休だが、受験勉強などする必要は無くなった。


父親一代でなし上げた貿易会社。

一之瀬財閥を継ぐべく、行く大学は父親によって決められていた。

このまま付属の大学へ行く事になる。

進級試験を受ければ良いだけなのだ。

今の成績で行ける大学はさほど無いが、進級する大学は父親が出資する大学なので行けないと言う事は無さそうだ…


俺は父が決めたレールの上を何の迷いもなく歩いてきたんだ。

今更自分で何かをしたいとか、反発する様な事も無い…

無かったのだが、ほんの少しだけ持ち合わせた絶対音感を生かし、ほんの少しだけ得意なヴァイオリンを本気で職につけれたらと思ったのも直ぐさまその思考は砕かれた。

プロの道は厳しいと言う事だ。


俺には父親の決めた道を進むほか無い。




俺よりも弟の謙信の方が世渡り上手な奴だと最近特に思う。


「入るよ」


ノックをする前に部屋に入ってくるのだからノックはいらないのではないのか?

などと、説教をするのもやめておく。


「親父、夜大事な話があるって」


「あぁ、わかった」


珍しく帰ってくると思えば話って…

どうせ、たいした話ではないだろう。


「ねぇ、何の話だと思う?」


勝手に部屋に入って来て俺のベッドの上に座り近くにあった、俺のお気に入りのぬいぐるみを抱きしめたかと思いきや、上から押しつぶしているので、早急に助けに入った。


「やめろよ…かわいそうだろ」


「兄様それ好きだよね…なんでピンクなの?普通緑じゃない?」


俺がクレーンゲームで取れた唯一の物だ。

本当は緑の方が欲しかったが、この色が取れてしまったんだ…


「緑の今度取って来てあげよっか!」


と、言って手を出すあたり抜け目ない。




「親父、何の話だろ…また新しい嫁でも連れてくるのか…」


「そうかぁなぁ~俺には兄さんの見合い話とかかなぁと、おもうけどね~」


はぁ?そんな訳あるか!

まだ俺は高校生だぞ!


「姫にも言っとくから~」


手を振りながら部屋を出て行ったが、姉様に向かって、姫と呼び捨てだ。

呼び捨てしたところで、名前が名前だけに…

呼びづらいんだが、謙信は何の躊躇いもない様だ。


勿論本人前にしては『姉様』と、呼んでいるが…


俺の事も何て呼んでるのか…

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