第75話
「返して」
目の前で無残な絵と化した自画像を取り返す身振りを見せながら、悟られまいとしていた。
「返すわけないじゃん」
「バーカバーカ」
くすくす。にやにや。ブンブン。どろどろ。
こんな汚物の掃き溜めの中にあっても、彼女だけは、気高くいるはずだった。
悟られないように視線を泳がす。
空中に投げられた自画像を取るふりをする。
「こいつキモ。何この動き」
誰かが、千歳の仕草を笑う。
そいつは、自画像を拾うとまた次の誰かに渡した。千歳は、必死なふりをして自画像を奪還しようと手を伸ばす。
もう、ふりではなくなってきた。
本気で、この汚れきった蠅の群れから自分を救い出したかった。
そして・・・そして、彼女の登場を待つのだ。
この場を掃き溜めから、綺麗に磨かれた宝石のように清く光る場所へと変えてしまえる力を持つはずの彼女を。
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