第66話

困るのだ。

この膿みはじめた傷口に、誰かが消毒液をかけて、絆創膏を貼るなんてこと、あってはいけないのだ。


大切に、大切にしてきたのに。

誰も知らないはずなのに。


アイデンティティの崩壊だ。

本当の意味での。


これ以上、近寄らないで!


「早く行こう。朝のマラソンできなくなっちゃうよ」

千歳は、無表情でつぶやくと学校へ向けて走り出した。



舞台上で、かかっていた紅色の暗幕が開いた。

しかし、チルチルとミチルの兄弟は青い鳥を探しに出かけることは、ついにありませんでした。



「今日の図工の時間は、自分の顔を描きましょう」

先生がそう言うと、クラスのみんなは自分の机の画用紙に視線を移した。

机には画用紙の他に鏡を置いている。

鏡。自分の顔。

嫌なアイテムばかりだ。

鏡は、先ほどの和菜の瞳を思い起こさせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る