第7話

「お母さん、あのね、今日、学校で人形劇があったんだよ。わたしもね、人形劇やりたい。将来、人形劇をする人になりたいよ」

学校から帰った千歳は真っ先に母親に伝えた。

嬉しくて、楽しくて、興奮冷めやらなくて、誰か大人にこの感情を伝えたかったのだ。


「そう」


母親の返事は素気ないものだった。


「あのね。お母さん聞いて。人形劇ってすごいんだよ。人形に糸がつけられていてね。それを人が操るの」


「そう。だから何。なんだっていうの」


母親は、この日イライラしていた。

理由は千歳には分からなかったが、子供の話を親身になって聞けるほど、余裕はなかった。


「だからね。お母さん」

「いい加減にしてくれる。人形劇があるってことはもうとっくに知っているよ。だから

なんなの」


「だからね、わたし、人形劇やる人になる」

「やめてくれる。劇団員なんて冗談じゃない。そんなお金稼げない人になったら、お母

さん泣くよ。人形劇なんて、どこがいいんだか」


千歳の指先を冷たい感覚が侵していく。

母親は機嫌が悪い。

そのことに気付いた。しかし、千歳は人形劇の感動を分かって欲しかった。

「人形劇はすごいよ。心のない人形がね、心があるみたいに、人間みたいに動くんだよ」


母親が、千歳の言葉を遮るように言う。


「人形なんて、ここにいるじゃない。あんたの玩具なんて、いくらでもあるじゃない」


何を言っているのか分からなかった。母親は、怒りをぶつけるようにまくしたてた。

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