第7話
「お母さん、あのね、今日、学校で人形劇があったんだよ。わたしもね、人形劇やりたい。将来、人形劇をする人になりたいよ」
学校から帰った千歳は真っ先に母親に伝えた。
嬉しくて、楽しくて、興奮冷めやらなくて、誰か大人にこの感情を伝えたかったのだ。
「そう」
母親の返事は素気ないものだった。
「あのね。お母さん聞いて。人形劇ってすごいんだよ。人形に糸がつけられていてね。それを人が操るの」
「そう。だから何。なんだっていうの」
母親は、この日イライラしていた。
理由は千歳には分からなかったが、子供の話を親身になって聞けるほど、余裕はなかった。
「だからね。お母さん」
「いい加減にしてくれる。人形劇があるってことはもうとっくに知っているよ。だから
なんなの」
「だからね、わたし、人形劇やる人になる」
「やめてくれる。劇団員なんて冗談じゃない。そんなお金稼げない人になったら、お母
さん泣くよ。人形劇なんて、どこがいいんだか」
千歳の指先を冷たい感覚が侵していく。
母親は機嫌が悪い。
そのことに気付いた。しかし、千歳は人形劇の感動を分かって欲しかった。
「人形劇はすごいよ。心のない人形がね、心があるみたいに、人間みたいに動くんだよ」
母親が、千歳の言葉を遮るように言う。
「人形なんて、ここにいるじゃない。あんたの玩具なんて、いくらでもあるじゃない」
何を言っているのか分からなかった。母親は、怒りをぶつけるようにまくしたてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます