コーラルピンクの嫉妬

1


 これはこまったことになった。

 スマホを開くたびにみつの顔を思い出してしまう。もちろん、今は指紋認証っていう素晴らしい機能があるおかげで、パスコードを打つことは殆どない。けれどやっぱりどうしても思い出してしまう。姉弟でパスコードをお互いの誕生日にしてるなんて、なんだか違和感だ。


「おい、あお」

「うひゃっ?!」


 突然後ろから声をかけられて素っ頓狂な声が出てしまった。後ろからクスクス笑う声がする。

 口を曲げながら振り向くと、案の定みつがけらけらと笑っている。その笑顔が憎たらしくて、とりあえず睨んでおく。


「なに驚いてんだよ」

「みつがいきなり近づいてくるからでしょ」

「別に近づいてねえけど」


 どすっと私の横に腰を下ろしたみつのせいで、リビングのソファがそちら側にグッと傾く。

 土曜日、久しぶりに部活がないんだと言っていたことを忘れていた。いつも、土曜のお昼に家にいるのは私くらい。お母さんもお父さんも、仕事は平日か日曜休みだ。というか、部活が休みの日はいつもお昼まで寝ているみつが起きて来るなんて珍しい。まだ朝の10時なのに。


「もう、いるならいるって言ってよね」

「今日部活なくなったって昨日言ったことね」

「そうだっけ、忘れてた」

「忘れんなよ」

「てか珍しく早いじゃん、どーしたの」

「べつに。腹減ったから起きた」

「ふうん、何か食べる?」

「うん、トースト焼いて」

「それくらい自分でやってよ」

「まだ朝ごはん食べてないんじゃねーの」

「ああうん、まだだけど」

「じゃあいいじゃん」


 それは私の分を作るついでにみつの朝ごはんも用意しろということだろうか。生意気な弟。

 私は渋々ソファから立ち上がってキッチンへと足を進める。すると、何も言わずにみつが私の後ろをついてくる。せっかくピザトーストでも作ってあげようと思ったのに、なんだかんだ一緒に作る気だ。

 みつは意外と器用で、ある程度のことは何でもこなしてしまう。もちろん家事も料理も例外じゃない。それに比べて、私は料理はもちろん、家事全般とても苦手だ。


「俺玉ねぎ切るからパンにバター塗っといて」

「はあい、お湯沸かすね」

「おーサンキュ」


 私が不器用なのを知っているからこそ、料理をするときは大抵みつが包丁担当。インスタントカフェオレのためにお湯を沸かして、食パン2枚にサッとバターを塗る。ピザトーストはサルサソースを塗る前にバターを塗った方が5倍美味しい。これはお義母さんに教えてもらったこと。


「タマネギとピーマンでいい?」

「うん、ありがとねー」


 冷蔵庫からサルサソースととろけるチーズ、ついでに牛乳を出す。私はホットカフェオレ、みつは牛乳。みつがあんなに背が高いのは、この毎朝の牛乳のおかげかも。

 タマネギを切るみつの横で、バターを塗った食パンにサルサソースを重ねていく。みつは「目がいてえ」と涙目になりながら、サルサソースを塗ったパンに切ったばかりのタマネギをパラパラの乗せていく。ついでに輪っかに切ったピーマンも。上からチーズをのせたら出来上がり。あとはトースターで数分焼くだけだ。

 役割分担バッチリ。ついでにみつは文句を言いながらも洗い物をしてくれるから、私は牛乳をコップに注いであげる。


「てかオマエ今日なんも予定ねーの」

「姉のことをオマエって呼ばないでよねー」

「オネーチャン、なんも予定ねーの?」

「言い方ウザいなあ……。ないよ。帰宅部の私は毎週家でゴロゴロしてまーす」

「ふーん」


 ふーんって、興味ないなら聞くな、ばあか。

 また心の中で「ばあか」なんて言ってしまった。みつがいちいち鼻につく言い方をするから悪いんだ。


「で、みつは?」

「何が?」

「予定あるの? 今日」

「あったらこんな時間まで寝てねーよ」

「あーはいはい、ソウデスネ」


 ピザトーストが焼けるのを待つ間に、私が用意した牛乳を飲む。コップに注いだそれを手渡すと「さんきゅ」って言葉を返してきた。お礼がきちんといえるところ。ここはみつの憎めないところだ。


「んじゃ、久しぶりにアレやるか」

「アレ?」


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