会話

第25話

チロルと南さんがいなくなると、マスターは、ぎこちなくなり、私に背を向け、指で場所を示しながら話し始めた。



「え~と、お風呂はあそこで、トイレはその隣。あと、布団は押し入れにあります」



「はい」



「バスタオルは、脱衣所の棚にあります。洗濯は乾燥もできるので、自由に使って下さい」



「はい」



「もし良かったら、キッチンのカウンターに、焼きおにぎりがあるので、食べて下さい。痛み止めの薬は、その後飲んで下さい」



「はい、ありがとうございます」



「僕はいつも、朝8時に起きて、10時には家を出ます。帰りは19時半頃です。一応、お風呂に入る時間の、参考になればと思いまして……鉢合わせしたら恥ずかしいでしょ?」



「はい」



「あの~、弥生さん……本当は……嫌だったり、僕を……気持ち悪かったり……」



「えっ?もう一度……お願いします」



私は、途中の言葉がよく聞こえなくて、マスターに聞き返した。




「……やっぱり、なんでもありません。それじゃあ、おやすみなさい」



マスターは、私と目を合わせることなく、足早に奥の部屋に入っていった。




1人になった私は、マスターが準備してくれた、焼きおにぎりを食べようと、カウンター席に座った。



そこには、とん汁と焼きおにぎりと、飲み薬と水が、置いてあり、優しさが胸に沁みた。



「このおにぎり……美味しい。豚汁も冷めてるけど、美味しい……」

  


誰もいない、静まり返った部屋の中で、



私は、なんでここにいるんだろう?



と、一瞬分からなくなり、涙が溢れた。

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