第10話

"チロルの家"の料理は、『あさりスパゲティ』の他にも、たくさん美味しい物があって、



『ピザトースト』や『ビーフカレー』もよく食べた。



ピザトーストは、パンがとにかく美味しい。厚切りで、ふっくら甘く、その上のチーズは、流れ落ちるほどだっぷりだ。



ビーフカレーは、喫茶店独特のレトルトっぽいルーの味だが、一手間加えていて、牛肉はほろほろと溶け、肉厚な椎茸がなんとも言えない風味を醸し出し、これまた美味しい。



私はこの店に惚れ、給料日や仕事で売上が良かった日など、ご褒美として週1回は、休憩を"チロル"で過ごした。



マスターに対する偏見は消え、



美味しい料理を提供してくれる、マスターを尊敬した。



だから無視をしてしまった事を反省し、仲良くなろうと、マスターに話しかけた。



「あさりスパゲティ、美味しかったです」



「あ……はい……」



しかしマスターは、目を逸らし話をシャットダウンしてしまう。



そのうち、避けられているような気がして、



私は、話しかけるのをやめた。

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