チロルの家
第6話
ある日、同期の直美が、応援で店に入る事になった。
直美はこの町から、電車で1時間離れた町に住んでいて、いつもはその地域の店で仕事をしている。
だから、セミナー以外会う事がなく、私は会える事を楽しみにしていた。
「弥生、久しぶり。今日は宜しくね」
「おはよう。直美、元気そうだね」
「ねぇ、弥生、今日一緒に休憩取れる?」
「うん」
「そこの喫茶店行こうよ。口コミいいし」
直美は"チロル"を指差した。
「チロル?嫌だなぁ。休憩室でいいじゃん」
「なんで嫌なの?」
「マスターが絶倫らしいから……」
私は、面白おかしく、チロルのマスターの噂話を、直美に話した。
「なにそれ、うける。――でも、弥生を襲うわけでもあるまいし、何警戒してるの?処女は被害妄想ヤバいね」
「処女って言わないでよ――恥ずかしい」
直美がゲラゲラ笑った。
「あのさぁ……こないだ、親戚のお兄ちゃんが働いてる、建設会社の飲み会に誘われてさぁ……行ってきたの。そしたらイケメンがいたの」
「もしかして弥生、恋しちゃったの?」
「うん。あまり話せなかったけど……親戚のお兄ちゃんに頼んで、連絡先聞こうと思ってる。なんて言って、デートに誘ったらいい?」
私は、この歳で、まだ一度も、男性と付き合った事が無かった。だから、男性経験豊富な、直美にいろいろ相談しようと思っていた。
「じゃあ、やっぱり、チロル決定!たくさん恋バナしようよ……ねっ、チロル行こう」
そんな流れで、私は、初めて"チロルの家"に行く事になった。
気は進まないが、今日だけ行って、次行かなければいい……そう思ってチロルの扉を開けた。
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