HEISEI、その後のマーク
HEISEI@Get backers
略してH@G。代表:片石 夏海。
代表と言っても僕しかいないのだけれど。
「若者は何でもかんでも略すんだから」
名刺を渡すと社長はしかめっ面をする。それが不機嫌そうには見えなくて、面白がってくれているのだとわかる。名刺は
「しかし、・・・HEISEI?‥‥‥‥ヘイセイ?はて」
社長が腑に落ちない顔をして首を傾けている。そういえば新しい年号って直前にならないと発表されないんだっけ。しかも年号が変わるなんて誰も知らない筈だった。“平静”と考えたとしても意味がわからないことだろう。
「どんな漢字を書くの?」
「
平成のへいとせいですと言えば伝わらない人はいないのに、もどかしい。そもそもこんな質問を受けること自体が今までありえなかったのだ。
「あと、これは何だい?ヘイセイの後のマークは一体」
惜しい。凄く近いことを言っているのに。
「それはアットマークと言って、社名とかの後に付けるマークです」
「ふうん。後マークか」
惜しい!もうちょいなのに!!
僕は適当に答えてしまった後で、彼が若い女性社員なんかに「このマーク何だか知ってる?」なんてドヤ顔で出題してしまわないかと不安になる。社長はマニアックなクイズを出すのが好きだから。
「ああ。この名刺うちで注文してくれたんだね。ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそありがとうございます」
ひとまず、「HEISEI@Get backersってどんな意味?」なんて聞かれなくて助かったと胸を撫で下ろす。
社長が何処まで話を把握しているのかは知らないが上手く説明できるとは思えなかった。インターネット上の匿名掲示板だなんて、この時代の人には理解するどころか想像するのも難しいだろう。
H@Gはダサ‐1で最初の応募作品だった。僕は一目見て気に入ったし、応募者の彼のおかげで後に続いて応募してくれる人も出てきた。その時以外にも何度か言葉は交わしているのだとは思うが、――――――会ってみたかったな。
さて。僕は背筋を伸ばす。
「あの、電話番号がまだ無いんですけど」
おずおずと切り出したものの僕は何て言ったらいいのかもわからなくて、おずおずとする。
[電話をひけ]
[絶対役に立つから]
僕が掲示板で「おまえら」に呼びかけた初期の頃、そう教えてくれたニキがいた。当時は自分の話を信じてくれたのだと単純に嬉しいだけだった。“
だがしかし「電話を“ひく”」ってなんだ???どういう状態だ。自分でも理解していない事象を上手く説明できるだろうか。そもそも僕は説明するという行為が苦手だった。そうすることで話が余計に難しくなってしまい泣きたくなることが今までに何度あったことか。しかもこの話の終着点はそこではなく、電話番号を手に入れたらそれを表記して、名刺を改めて刷り直したいというところだ。辿り着けるだろうか。
次の言葉を選ぼうとしていると社長が「わかった」と首を縦に振った。
え、わかったの?どうやって?
「電話ひきたいのね。手配しておきます」
僕の不安なんかとは裏腹に問題なく伝わっていたようだ。あっさりと分厚いカタログを手渡される。まだ何も言っていないのに、やっぱり社長は凄いや。二代目は伊達じゃない。
「これに載ってるから好きなの選んでおいて」
「あ、はい」
電話を「ひく」という言葉が彼らのような職種の専門用語なのか、そうでないのか僕にはわからない。
「他にもこの中で必要な物があったら言ってちょうだい。お支払いは・・・まあ取れるところから取るから気にしないで」
「ありがとうございます」
馴染みのあるカタログは未来と変わらない造りだが、きっと内容は想像もできないほど型落ち製品だらけだろう。表紙もぼやけているように見えるのが如何にも昔の写真という趣だ。僕が思い描いていた通りの昭和の―――――
―――――ああ、そうだ。
僕は記録でしか見たことのない過去の景色を、画質の荒さそのままにぼやけているものだと無意識に思い込んでいた。白黒写真の時代には色なんて存在もしないのだと。考えてみたら当たり前なんだけど、そんなことは全く無かった。昭和の終わりは鮮やかな色と活気で溢れている。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
応募作は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
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