第19話

「そんな筈は無い、では我に付いて参れ」


ファハドと侍従は、ほんの今さっきの先程ーーー


立派な毛皮付き装束をまとった背の高き無口な従者の案内の元、自分達が安全に降りたばかりの坂登り口に案内しようと試みました。


が、どうしてなのか?

どんなに二人で、いくら探しても、あの滑らかな辿った坂道は煙の如く消え見つかりませんでした。



ただこの騒ぎの中、村内最長老のお年寄りが突如、自身の童の頃の『伝聞』としてこんな不思議な事柄を鮮明に思い出したのです。



「冬の炉端で、当時村で最も長生きのわしのじいじより聞いたことがあった」と。



長寿者の彼の言うには、村長一族の御先祖様に『晴れがましい大役』


星読みの占星術にて王家直々の招聘ショウヘイ、王女乳母役に大抜擢、見事な石造りの住居に住む賢女がいた事。


村に報せが届いた後、王宮への案内役として立派な毛皮の装束をまとった長身の寡黙な守り役が村を訪れた事。


飲めや謳えやの村始まって以来の素晴らしい華やかなお祭り騒ぎの宴席を設け、翌朝村中で笛太鼓で送り出し、老いも若きも全員で賢女達を見送った事。


でも都への下山途中、地形が変わる程の巨大な地滑りが発生


巻き込まれた二人は未だ消息不明だという事



賢女は自分が誰かの役に立つ事を心より楽しみにしていた事



「じいじは村に伝わる大切な伝承で、確か百年以上大昔の出来事だと申しておりましたかな?


イヤァワシもすっかり頭がもうろく、イヤハヤとんと忘れておった」


遠い目をした、今語るその自身こそが村の知識の源、最長老であるお年寄りは懐かしげに、ゆっくり楽しげに問わず語りで昔々の伝承を皆に披露しました。





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