第15話

一行は背の高い無口な侍従の案内で下山、一夜の楽しい時を過ごした事を懐かしみつつ印象的な住居を何度も振り返り手を大きく振り緩やかな路を下ります。


そんなおり、集落との境目の坂登り口付近で、びゅうっと再び山肌を這う冷たい強い風が男達の髪をなぶりました。


主人と侍従は慌てて頭をしっかり押さえ、マントのフードで冷風から顔を守ります。


漸く凍える強風が凪いだ時、いつの間にか、確かに前にいた筈の背の高い立派な出で立ちの従者の姿はどこにも見当たりません。


不思議な事に足下の路も滑らかさはなく、ゴロリと角の目立つ小岩だらけ、ゴツゴツの荒い傾斜に変じておりました。



ふたりがいぶかしんで顔を見合わせているその時、サァーーーッと眩い本日初の綺羅々かな太陽の光明が、まるで連山の高き峰峰を下へ従えるかに登り始めます。



「では頼むぞダイヤモンド号、どうか無事で我が愛する姫の元に


〜きっとお前が私達の中、最もはやくに故郷に戻れるはずだからな


私はお前が誠に頼りなのだ」



そう心を込めて鳩に話しかけた、ファハド手ずからパサーーーッ


蓋を大きく開放した籠からひと息に飛びだたせた最強の翼のダイヤモンド号


鳩はしんしんと凍えかじかむ山麓の大気をまるで蹴散らすように、山岳の気難しい気流を読みました。


賢く巧妙に早朝の山肌斜面ごとの温度差で渦を巻く、もはや人智では感知出来ない微細で複雑な上昇気流を揚力として翼に捕らえます。


鳩はあっと言う間にハラハラ気を揉む主従を下界に残し、サファイアブルーの澄んだ蒼天に白い砂糖が溶けるかに消えてゆきました。


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