第91話

「そちらの振込先を教えてください」


繋がったと同時に用件をぶつけた。それくらいムカついていた。



「……いきなり電話かけてきて一体何の話だ?真樹、だよな? アクセスリースとしての支払いが何か発生したのか?」



驚いた声を出す門口は、母親の行動なんて知らないのかもしれない。



「支払ってきたのはそっちでしょう?」



だけど、分からないじゃない。


飴と鞭を使いこなす女慣れしたベンチャー企業の社長、気まぐれで摘まみ食いした女なんて、直ぐに飽きたのかもしれない。



「……だから、なにを?」


「手切れ金です、五十万円。あなたのお母様がうちへ持ってきたそうです」



本当に代役だけでいたのなら、こんなことに動揺したりしなかったのに。




「……あのババァ……とことん失礼な人間だな」



電話の向こうから、怒りに満ちた門口の声が聞こえてきて、しまった、と思った。


やっぱり感情の赴くままに電話なんてしなきゃ良かったと……。



親子の仲を険悪にしたかったんじゃない。




「お前の返事聞く前だけど、俺はもう家には帰らないと決めた」




ただ、門口の本心を知りたかった。




「明日、仕事終わったら迎えに行くから、そん時ちゃんと話そう」




そして、自分が安心したかっただけ。

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