第25話

美空、紹介するな。俺の父さんの恩人の多紀さんだ。タヌキですというと笑いを誘いながら入ってきてくれた人、それはかなり若い人に見えたけど、よろしくねというと、私もこくりと頷いた。タヌキでいいよというと、タヌキって呼ぶことにした。美空ちゃんだね。さっそくいいかなというと、お前の家の事知りたいらしいんだよというのだ。まず、私の話を聞きたいと言ってきたので、これまでおっさんに話をしたことのないことも話した。私、なんで早く生まれてきてしまったんだろう。早く生まれてこなかったらきっと障がいを持つこともなかったのにね。母に産まなきゃよかったって言われた。父はそれを聞いた時、すごく怒ったの。なんで子供にそんなことを言うんだって。父は私を抱っこして公園にも連れて行ってくれたり、人と関わらそうと努力してた。で妹が生まれて来た。その妹は私みたいに障がいを持ってないけど、まったく育てる気が母はなかったみたいで父が妹も面倒を見ていた。そんな父は交通事故でなくなってしまって、もしもの時は妹が私の面倒を見てくれるって言ってたからお金を残してたのを未成年だからって母に取られたの。妹は毎日、バイト先でバイト代とパンをもらって帰ってきたの。そのバイト代は妹が銀行にあずけてもらってたんだけど、ある日、勝手に母名義になってたんだ。100万になったらマンション借りて一緒に住もうって言ってたけど、でも母名義になったことで100万になる前に降ろされていたんだ。妹はそれで怒った。それでバイトのしてるとこに事情説明して取られたくないからって店長が大体のお金は渡すとして、後は預かってもらってたんだけどね。でも、もうそれもする必要がなくなった。でね。ご飯は父の時はちゃんともらってたんだよ。でももらえなくなってから毎日草ばかり食べていた。だけど時々妹がパンをもらって帰ってくれるようになった。それを食べれるときはあったけど、でも次の日になると捨てられていた。母は妹にもなにも与えなかった。妹は私のパンっていうと食べれないように、生ごみの中に入れられていたからすごく怒った。私に食べてもらおうとしたパンを捨てられて悲しそうだから。ゴメンっていつも謝ってた。でも妹は謝る必要ない。姉ちゃん、あの昨日のパンおいしかった。っていつも聞いてきてくれるの。私、妹に頼りっぱなしで恥ずかしくて。だけど草を食べているのを咎めたりとかしなかった。パンがある日は食べていたんだね。とタヌキさんに聞かれて、うんと言った。彼女の家は貧困ってわけではないけど、ネグレクトっていう育児放棄が原因だろうね。で、母とはどうしたい。関係は断てる時ではないからね。君の場合は児童相談所に保護されたわけじゃないからさ。養子っていうと出来ないんだけど、これからも療治と一緒にいたい。と聞かれて、こくりと頷いた。分かった。僕から出来る支援は見守ることなのかもしれない。だから見守るよ。というタヌキさん。そうタヌキさんは、療治はゴリラに似て来たねというのだ。おっさんがゴリラってどういうことだろうと思ったが、ゴリラとは親父にやっぱり似て来たってことかよ。そりゃ似るだろうなというと笑っていたおっさん。私も一緒に笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る