第40話

「真野さん?」



橘君の声が自分の耳に入ってきて初めて、こちらを見ている橘君に気づく。



「あっ…、いや、うん。ソファは場所、取るから…ね。」



「……そう、ですか。」



少しだけ疑われているような気がしたけど、私は一生懸命隠す。



思い、出すな。





落ち着け、今は大丈夫だから。



何も、ないから。





フライパンを握っていた手を、ギュッと握りしめる。



自分が“あの”場所ではなく、ここにいることを確かめる。



大丈夫、大丈夫。



震える手を、抑え込むようにして止める。




あの頃とは、もう違うじゃない。



忘れろ。





大丈夫、だから。

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