第50話

『ご心配どうも。この学校が汚すぎるせいで耐えられなかったみたい。』



「柔いなぁ?あんな化け物級に強いのに。良いところお坊ちゃんなんだねぇ?紺には興味惹かれるなぁ。」



ゆっくりと人の良い笑みを浮かべながら、紺の寝ているベッドに近づいてきた。

大吉と錦が紺を隠すように立ち、そんな2人の肩を伊嶋はポンポンと叩く。



「紺って可愛いよねぇ。体も華奢で腰も細くて、指も細くて……喉仏ちっさいよね?」



「身体的なことを言うのはどうかな?紺がコンプレックスに思ってたら可哀想だよ。」



「男の手って、どうしても骨張っちゃうもんだけど紺ちゃんはほらー!やっわらかーい。」



伊嶋は何故か錦の手に触れて、もう片方の手で紺の手に触れた。

紺に触れる伊嶋の手首を掴み、握り締める。



『触るな。なにお前ホモ?』



「そっかー1年生は知らないかー。」



『は?』



ニヤリ、と笑った伊嶋は未だ離さない紺の手に口を寄せる。

その瞬間、穏やかで温厚な錦が伊嶋の首に手を伸ばし力を込める。

大吉は伊嶋と紺の間に無理矢理入って紺を守る。



「クッ……痛いし苦しいなぁ。俺はホモじゃないよ。女の子だーいすき。無類の女好き。だからこそ紺の秘密気付いちゃったんだけど。」



「紛らわしい言い方すんな。紺に秘密なんて」



「紺は……女の子だよね?俺、気の強い女の子だーい好きなんだよね。顔も好みだし性格も面白いし、気に入っちゃった。」



「『紺は男だっ!!』」



「紺なら男でもイケるかも。別腹別腹~!双子くんたちの様子見る限り……嘘つき二人は知ってるんだね。錦くん、俺たち蚊帳の外だね。」



「黙れ。」



錦の眼光が鋭く光り、部屋の温度が下がる感覚がする。



「怖いなー。さすが九条組の次男坊だね?仲間外れだからって俺に当たるなよ。優男が台無しぃ。幼馴染みで仲良し三人組にも隠し事ってあるんだね。友情ごっこは楽しい?」



『お前に関係ない。』



錦が手に力を込めると、笑いながらも伊嶋は顔を少し歪めた。

錦の瞳から光が沈み、色をなくす。

錦に隠し事をするのは罪悪感があるが、俺と大吉は柳の人間だ。

紺のことは重要機密。

でも、錦はどう思っているのか少し怖くもあった。



「俺は錦の為に言ってるのに。大吉も諭吉は図星付かれて腹立つよね?」



俺と大吉を侮蔑的に見て笑い、自分の首を絞める錦の手を握り締める。



「僕の為?アンタが楽しむ為やろ。俺は紺ちゃんが男だろうと女だろうとどっちでもええ。紺ちゃんが言うてくるまで聞く気もない。僕にも隠したいことも、誰にも見られとうないもんもある。」



「へー……つまんな。サムいわ。手ぇ離せ。」



錦は渋々手を離し、無表情になった伊嶋は首を擦りながら踵を返す。



「紺のこと口説き落としてやるから。あははっ!これから愉しくなりそうだねー。」



イカれてる。

本気で紺に惚れたわけでもなく、ただただ自分が退屈しないために紺や俺たちで遊ぼうとしているんだ。



伊嶋が出て行っても、俺たちは何も言えずにいた。

伊嶋の言葉に、錦から動揺は見られなかった。





────錦にはバレていたんだ。





いつ何処でだか分からない。

転校二日目でこんなんで、これからやっていけるのか?

ダメだ。俺が弱気になってちゃ紺を守れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る