第30話
ある日突然現れた嵐のような女。
可愛いというよりは美しいという言葉が似合うゾッとする程綺麗な女の子。
グリーンのアーモンド型の猫目は、頭とアオさんと同じだった。
しかし見た目とは裏腹に、口が悪く直ぐ怒る。
怒っているのに眉一つ動かさない鉄仮面無表情。
それは遊びに行って楽しそうにしていてもピクリとも動くことなく、喜怒哀楽はあるみたいだが表情筋が死滅しているみたいだ。
その人は大男を投げ飛ばす程の怪力の持ち主、繰り出す一撃一撃が女とは思えない重いもの。
男たちに囲まれても低くドスの効いた凄む声は抑揚もなく恐ろしい。
頭と父以外で初めて人を恐いと思った。
頭の凄みに怯えることもなく、あろうことか持ち歩いている武器で壁や机や鯛の頭を刺す乱暴で狂暴で暴走的で取り敢えず危ない人だ。
彼女の背中に“触れるな注意”のシールを貼りたい。
『大吉、俺……あの人に命預けるわ。』
「俺も。」
大吉を助けてくれたのもそうだけど、人を惹き付ける天真爛漫な言動。
「家族を盾にするのは、“当たり前”か?」
綺麗事だろうが、嬉しかった。
頭が彼女を選んだ意味が分かった気がする。
────「大吉、諭吉。いつかアンタらにもこの人の為なら命を張れる、預けられると思う人が現れるはずや。そん時、きっと私たちの気持ちがよう分かるようになる。」
真っ白な消毒液のにおいがする部屋で紡がれた優しい声を思い出す。
暴れん坊の彼女───若頭の紺、自分達が仕える人の背中を見つめる。
「諭吉、やっと見つけたな。」
『そうだね。』
嬉しそうに笑う双子の兄と頷き合った。
今日は紺の転校初日。
朝食を終え、支度も終えた俺たちは玄関で足を止める。
今日は仕事が休みの数人の男たちが見送りに集まっていた。
「毎朝見送りはいらないぞ?」
「俺たちがしたいだけです。ご迷惑ならやめます。」
「あ、ありがとう?そんじゃ、いってきまーす!」
「『はい、ストーップ!』」
「あ?」
玄関に置かれてあった金属探知機を、大吉と一本ずつ紺に当てる。
昨夜、父たちによって紺は体に隠し持っていた武器だけでなく、自室部屋の中にあった武器も没収されていた。
持ち歩いていたものよりも遥かに危険な武器たち。
あの光景はさすがにその場にいた全員が引いた。
頭と姐さんは「頼もしいねぇ」なんて言っていたが、顔は僅かに引き吊っていた。
表情一つ動かさず目から大量の涙が出ていたのも驚いた。
そして、表情筋が死滅した彼女が唯一父親から貰ったという警棒を取られた時だけは僅かに焦ったのが分かった。
厳しい父もそんな彼女に気付いて警棒だけは返した。
『はい、フォークは没収します。』
「ハンマーも没収しまーす。」
それでも彼女の体からは反省は見えなかった。
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