第21話

「今日から共に暮らす次期組長で僕の孫娘の紺だ。」







圧巻の一言であった。

何百という厳つい男たちが大きな宴会場で座り、上座にいる祖父母と私を見つめている。

私が諭吉と大吉に連れられてきたこの部屋は、来た時から静寂に包まれていて布が擦れる音が時折するくらいだった。

祖父の言葉を皮切りに、男たちは私たちに向かって頭を下げて「よろしく頼みます!」と大合唱だった。

そして始まった数百の自己紹介。

立ち上がって名前を言って座る男たち。

それが終わると、祖父は笑って「覚えろよ」と言った。



「紺の護衛役は……大吉と諭吉。指導役には獅子しし。三人とも頼むね。」



「「「御意。」」」



「それから、紺は来週から私立花房学園に通ってもらう。」



花房学園か……どんなところだろう。

新しい学校には少しワクワクしていた。

そんな私の耳に、驚いたような焦ったような声を上げたのは祖母。



「……あら?百合学じゃなかった?」



「紫織、そんな所に紺ちゃん入れるわけないだろ?」



「え……でも勲が先月言ってたわよ。」



「……あちゃーっ!言い間違えたのかー!」



『おい、下手な芝居やめろや。コブ付けるぞ爺。』



大根芝居だぞ、クソ爺。

名前は可愛いけど、“そんな所”とはどういうことだ!?



『みくじさん、百合学ってなに?』



祖父は頭を捻る仕草をするだけで、話が進まない。

一番近くにいるまともなみくじさんに話を振ると、みくじさんは私を見つめて形の良い唇を動かした。



「百合学園は、極道もんの倅や令嬢、暴走族、荒くれ集団が通う通称不良育成量産高校でございます。暴力恐喝当たり前、気に入らない奴は半殺し、下剋上上等の少し気性の荒い男子9割女子1割の学舎でございます。」



『おい爺、聞いてないぞ。』



殺気を抑えられるずに祖父を睨み、低く血を這う声で凄む。



「あっははー。っわ!!」



ガシャンッと食器が動き、大きな宴会場は驚きと殺伐とした空気になり、全員の視線が私の手元──テーブルの上に置かれていた刺身の盛り合わせの鯛の頭に刺さったそれを見ていた。



「「ふぉ、フォーク!?」」



祖父の目の前にめり込ませたそれ──父の家から拝借したフォークから手を離して祖父に体を向ける。



『次、ああなるのはアンタだけど……文句ないよな?』



「紺はほんとヴァイオレンスだよね。」



『アンタと母にだけな。』



「僕、そういうところ気に入ってるよー。紺、君は次期組長なんだよ。裏の世界に生きていくことがどういうことか想像くらいつくよね。百合学にいる荒くれ者どもはまだぬるま湯だ。少しずつ慣らそうって僕の優しさだよ。紺ちゃん、文句ないよね?」



『っ、』



たしかにそうだ。

母は私が祖父の話を呑んだと話した日に少し話してくれた。

騙し合い、死と隣り合わせで惨いものだと。

それは普通の人の想像を絶するものだとも。



────「紺が生きていたくない。死を望む日がいつか来ても可笑しくない世界だとしても……それでも行くの?」



私はそれでも行くと決めた。

自分の命よりも重いものを守りたいから。



「紺ちゃん、君は今日から不良になれ!!」



祖父の言葉に目を閉じた。

浮かぶのは、大好きな父と母の笑顔。



『承知……した。』



「うむ。と、いうことで……今日より紺ちゃんは家族になるわけだが、紺ちゃんのことは“お嬢”ではなく“若頭”として呼ぶように。そして、これから君は三年間男として学業に勤しみなさい。」



『は?』



「紺ちゃんは口も悪いし、振る舞いも到底女の子に見えないからそのままで大丈夫だね。それじゃ、話も終わり!ごはん食べよう!いただきま」



ドンッと次は祖父の箸に向かって果物ナイフを刺した。

それは細い箸を弾いて、テーブルに刺さった。

祖母が引き吊った笑みを浮かべているのが見える。



「紺ちゃん、家庭内ヴァイオレンスプレイはまた今度ね。はい、いただきます。」



「「「「い……いただき、ます……。」」」」



男たちがどもりながらも祖父の号令に続き、手を合わせた。

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