第19話

「へっ!?」



『なに?』



「い、いいえ……頂きます。」



廊下ですれ違う男たちの視線が刺さる刺さる。

おいおい、何故私ではなく恐る恐る水を飲む諭吉を睨む?



「……あ、ありがと?」



『おー。』



「あ、ここ!」



そう言って指差した廊下の一番奥の部屋。

部屋に入ると、まるで何処かの旅館のようだった。

引き戸を開けて中に入ると、六畳の茶室のような部屋と10畳以上ある和室。

和室の部屋に不釣り合いのクイーンサイズのベッド。

トイレとお風呂、洗面台もついている。

全部の部屋がこんな感じなのだろうか。



『……諭吉の部屋もこんな感じ?』



「いや?俺は六畳の和室。俺と大吉はここで一番新米だからな。風呂は大浴場があるんだ!女湯もあるから紺も入れるぞ!」



『ここは旅館か?』



「柳組の家だぞ?」



『マジレスすんなよ。』



それにしても、私がこんな良い部屋を使っていいのか?

まあ、祖父が選んだのなら有り難く使わせてもらおう。



「キャリーケース一つって、荷物少ないな。」



『夏服やら消耗品しか必要ないからな。これでも女の子だからね、キャリーケースぎゅうぎゅう詰めだよ。それに今の時代、タブレットがあれば暇も潰せる便利な時代だもん。』



「そかそか。紺も疲れてるだろ?俺は戻るから宴会の時に呼びに来るよ。ゆっくり休め?」



『あんがとー。』



畳の上にゴロッと寝転がると、諭吉は私に部屋の鍵を渡すと部屋を出ていった。

扉が閉まる音を聞きながら近くに転がっていた座布団を折って枕にして天井を仰ぐ。

無音の部屋に某怪盗アニメの軽快な音楽が流れた。



『もしもし、父?』



「もう着いたか?」



『聞いてよ!色々大変だったんだよー。もう疲れたー。』



「本当に……大丈夫か?迎えに行こうか。」



『……父、私は大丈夫。』



おまじないの言葉。

“大丈夫”と言えば、自分を保ち続けられる。



「……頑張りすぎるなよ。それと、パパのお家からあれらが減ってるんだけど……紺ちゃん?」



父はいつも私の心配をして頭を撫でてくれるんだ。

優しい声に、今日会ったのに二人の顔が見たい。



『父、家族分は残したよ。』



「このっ、」



『またねー。パパっ、愛してるよお。』



「紺ちゃん今パパってい」



五月蝿くなりそうな電話を切って、スマホをベッドに放り投げた。

そして今度こそ、目を閉じて意識を手放した。

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